焼き色の付かない卵焼きを焼くにあたって、寿司職人のサマナから「出来るんですか?」と聞かれた。
それで、「出来るか出来なきないかじゃない、やるんだよ。」
と答えておいた。
この辺の考え方の違いが、直弟子と普通のサマナの違いということなのだろう。
出来て当たり前。
麻原からの指示に対して、「出来ません。」という答えはない。
温度変化のデータに目を通してみると、センサーの感度がいいらしく温度上昇は緩やかになっている。
これなら焦がす心配はなさそうだ。
水は完全な液体だから、対流する事で全体が割合均一に熱が通る。
しかし、卵はそうではない。
熱が伝わりにくい分、ゆっくりと温度を上昇させる必要がある。
卵液が固まるのは70度以上だが、70度ではまだ柔らかく完全に固まるとは言えない。
だからといって、90度以上にまで温度が上昇すると、今度は卵が固くなってしまう。
卵を完全に固めて、それでいてふんわりと柔らかく仕上げる。
そのためには、温度上昇を80度で止める事が必要になるだろう。
データから、ボリュームを調整して、約20分で80度にまで温度が上昇すると予測した。
卵焼き器の内側に油を引いて、卵液を流し込む。
そして、蓋を閉めて、スイッチオン。
20分後確認してみると、予想以上に温度が低い。
なので、さらに10分追加焼きして、その後電源を切り10分間蒸らす。
これで焼き上がりなのだが、取り出してみるとどこにも焼き色のない、それでいてしっかり固まった黄色い卵焼きが出来上がっていた。
さっそくK正悟師が一切れ食べてみて、「予想通り、完璧です。」
とご満悦だった。
K正悟師は、「CSIにお礼を言いに行ってきます。」と言ってサティアンへ行ったので、僕は2枚目の卵焼きに取り掛かることにした。
階段の下でごそごそやっていると、CSIのサマナがやって来た。
「あれで焼けたんですか?」と、ビックリしたような様子で聞いてきたのが妙に可笑しかった。(笑)。
「うん、大丈夫だよ。」
と答えると、「噂は本当だったんですね。」
「R師に任せれば、何とかしてくれるって聞いてたんですよ。」
と言っていた。
誰だよ、そんな変な噂を流している奴は。(笑)
2枚目の様子を見に行くと、20分でほとんど固まりかけていた。
なるほど、連続してヒーターを使っているために、予熱してから焼いている状態になっているのか。
これなら追加焼きは5分で十分だな、と思っているところへ村井がやって来た。
K正悟師から報告を受けたらしく、僕の顔を見るなり、
「君がやってくれたんか、有難う。」
「さすがやな。」と言った。
ここが村井の凄さなのだと思う。
自分よりステージの低いものであったとしても、認めるべきものはきちんと認める。
まあ、失敗続きのCSIとしては、数少ない成功例なのだから当然の事なのかもしれないが。(笑)