そう言えば、村井のことでまた思い出した。
あるとき僕が他のサマナと何か単純作業をやっている時、村井がやってきて「何をしとるんや?」と聞いてきた。
まったく何にでも興味を持つ男だ。
麻原の指示で急ぎの作業だということを伝えると、村井は「そうか、わしも功徳を積まさせてもらお。」といい作業を手伝いだした。
あんたはシャカムニか。(笑)
知ってる人は知ってると思うが、シャカムニにはこんな逸話が残っている。
弟子の一人であるアヌルッダ(天眼第一)は目が見えないので自分の衣を繕うにも苦労をしていた。
針に糸を通すのが難しいので、誰かにやってもらおうと思い、「どなたか功徳を積もうという方はおられないか?」と尋ねた。
もちろん、自分の周りに誰がいるのかということは知らない。
すると、「それでは私が功徳を積まさせていただこう。」という聞き覚えのある声がした。
それがシャカムニだったというわけなのだ。
村井のこの態度はオウム内部では非常に珍しい。
傲慢な幹部たちはサマナたちが行う単純作業などやろうとはしないし、まだ成就していないサマナでも「おれはでかい仕事をやる人間なんだ。」とかいって人を見下して単純作業をやろうとしない者もいる。
それなのに村井は、麻原が急ぎだと言っているということを聞いただけで、即座に作業を手伝い始めたのだ。
中学生でも出来そうな単純作業。
そんなバカみたいといわれそうなワークにさえ全力で取り組む村井の姿勢は尊敬に値する。
しばらくして、「よし、一つ出来た。」村井はそう言って、ふたつめに取り掛かった。
と、ここで村井は我に返る。(笑)
「しもた、こんなことしてる場合やなかった。」
そりゃそうだよねえ。
村井はやりかけの作業を「すまんが後を頼む。」と言ってサティアンへと歩いていった。
サマナたちが行っているのは、全てがグルから与えられたワークである。
全てが必要な事であり、村井はどんなに単純なワークも見下すことはない。
そしてあの、いかなる状況においても貪欲に功徳を積もうとする姿勢は、誰にも真似が出来ないだろうと思う。
麻原から次から次へと指示を与えられ、寝る暇もないほど忙しいのに、それでも功徳を積む機会があればさらに功徳を積もうとする。
村井のあのエネルギーはいったいどこから沸きあがってきていたのだろうか?