サマナとふたりで、「立ち入り禁止だよ。」とか、「ダメダメ、入っちゃダメ。」とか言いながら近づいていくと、その男は「あ、分かってます、分かってます。」と言って手で制するようなしぐさを見せた。
話を聞いてみると何のことはない、大日本インキの人だった。
どうやらオウムの印刷工場の噂を聞きつけて、その場所がどこなのか知りたかったらしい。
「まだ工場は稼動してないから帰ってくれ。」と言うと、
「分かってます。秘密なんですよね。分かってますよ。」と一人で納得していた。
それから、「これが印刷工場かあ、大きいなあ。やっと見つけたあ。」
としきりに感激していたようだけど、それボツリヌス培養プラントなんだよねえ。
余計なことで時間をとられてしまったが、僕はコンテナでの作業に入ることにした。
コンテナの内部は建設用の資材が置かれていた。
真ん中には通路があったが、左右には物が置かれ奥が見えないようになっている。
右側の奥にはドラム缶が置かれ、左側にはテーブルの上に実験器具が並んでいた。
確かに広瀬が言っていたように、いつもどおりのワークだなと思いながら作業をこなしていく。
ドラム缶の内部をアルコール消毒して紫外線ランプを照射。
ポンプも同様に消毒して、ドラム缶の中に入れた。
次にベルト型ヒーターをドラム缶に巻きつけ、シリコンシーリング材で固定する。
センサーは内部にたらし、温度は37度に設定する。
ポンプが熱を持たないように、15分おきにオンオフを繰り返すようにタイマーをセットする。
そこへ広瀬が圧力鍋を運んできて、その中身をドラム缶の中へ入れた。
圧力鍋の中身は、滅菌されたペプトンの水溶液だった。