<七色の声>

 

由紀乃ちゃんの最大の魅力としてよく言われるのは、色合いの異なる多彩な声を散りばめる歌唱法です。七色どころじゃなく数えきれない多彩な声を駆使して複雑で深みのある味わい深い歌に仕上げる天才的な歌唱法はこれまでの歌手ではあまり見られないもので、この技術の高さが大御所を始めとしたプロの歌手を唸らせる能力なのだと思います。同様の歌唱法の天才歌手がおりまして、それが都はるみさんです。多彩な声と力強い小節で一時代を築いた歌姫、共に市川昭介さんに教えをいただいた市川門下生の長女と末娘ということになります。この歌唱法は市川先生の厳しい指導によってもたらされたものだと思いますが、市川先生が理想とした歌唱法とそれを唯一体得し得た都はるみさんと由紀乃ちゃんの歌唱法の比較などは後程詳しく見ていきたいと思います。

 

「おんなの海峡」(原曲 都はるみ)

 

「おんなの海峡」(都はるみ 本人歌唱)

 

「大阪しぐれ」 2013年、都はるみさんが始めて由紀乃ちゃんの歌唱を聴いた場面

 

歌の巧さとは声帯のコントロールの巧さではないのかと、素人ながら推測するのですが、プロの歌手、特に演歌歌手の世界ではその要素がとても重要であると見なされているような気がします。自分が出来ない技術が出来る。これが由紀乃ちゃんに与えられてる称賛の中身なのではないでしょうか?

 

「人生歌がある」という番組で本人の前で本人の持ち歌をカバーするコーナーがありますが、歌い終わった直後にご本人から由紀乃ちゃんに「巧い」という第一声が掛けられる場面を、天童よしみさん、坂本冬美さん、小林幸子さん、川中美幸さん等の共に歌唱力では定評のある方々の回で見掛けました。

この方々の第一声が「巧い」なんですね。本当に巧いんでしょう。

 

で、その巧さの中身なのですが、一曲の中のそれもワンフレーズの中に何種類もの異なる色彩・明暗・肌合い・硬軟・・の多様な声を散りばめていて、それは単に装飾のためだけのものではなく、歌詞の中でのその言葉や一音が持つ意味以上の情感やニュアンス・イメージに近いもの、等を表現するために、適切な形と順列で並べられ、ひとまとまりの音楽的に美しい魅力的なフレーズとして歌われるのです。フレーズどころか一音の中に数種類の声を並べることさえあります。

 

それは全て歌詞の中でのその一語や一字が持つ微妙な情感・ニュアンス・感情の揺らぎを表現するためのもので、そのために用いる声の選択が極めて適切で的確なのです。自分の持つ多彩な声に対する感受性の豊かさとそれを駆使する直感的能力の高さは神懸かり的と言っていいでしょう。

 

このような能力を普通は天才と呼びます。

 

「おもいで酒」(原曲 小林幸子)

 

「おもいで酒」(小林幸子 本人歌唱)

 

「夢追い酒」(原曲 渥美二郎)