転生したのでしょうがなく 071 魔道具 | aitocolab ブログ 

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只の妄想を
アウトプット出来る時代に
感謝

朝。

セレスティアは、柔らかな朝の光を感じながら目を覚ました。

侍女に身支度を手伝ってもらい、髪を整えてもらう。

準備を終えると、セレスティアは部屋を出て、談話室へと向かった。

もう少しすれば、朝食の時間らしい。

談話室には、屋敷の侍女が一人控えていた。

セレスティアは彼女に声をかけた。

「すみません。アルヴィン様は、今どちらにいらっしゃいますか?」

「アルヴィン様でしたら、現在は屋外で素振りをなさっております」

「素振り……ですか?」

「はい。朝は武術の訓練をなさることが多いです」

セレスティアは少し考えたあと、侍女にお願いした。

「よろしければ、アルヴィン様のいらっしゃる場所まで案内していただけませんか?」

「かしこまりました。ご案内いたします」

侍女の案内で屋敷の外へ出る。

しばらく歩くと、武術の訓練に使われているらしい広場にたどり着いた。

そこには、一人の少年がいた。

アルヴィン・レグナード公爵。

アルヴィン様は、木剣を手に黙々と素振りを繰り返していた。

セレスティアが近くまで来ていることにも、まだ気づいていないようだった。

その姿を見て、セレスティアは思わず足を止めた。

無駄のない動き。

木剣を振り下ろすたびに、身体の軸がぶれない。

一振りごとに、確かな積み重ねを感じさせる動きだった。

(……すごい)

セレスティアは、剣術の心得があった。

幼い頃から、武術の訓練を受けてきたのだ。

同年代の相手であれば、大抵は勝てる。

そんな自信も持っていた。

だからこそ、アルヴィンの素振りを見て、少なからず驚いていた。

ただ剣を振っているだけではない。

動きの一つ一つに、技術と鍛錬が感じられる。

十歳の少年が身につけているものとしては、かなりの練度だった。

(もし、私と戦ったら……)

勝てるだろうか。

そう考えた瞬間、セレスティアは自分の中にあった自信が、わずかに揺らぐのを感じた。

もちろん、素振りを見ただけで勝敗を判断することはできない。

それでも、少なくとも簡単に勝てる相手ではなさそうだった。

セレスティアがそんなことを考えている間も、アルヴィンは素振りを続けていた。

やがて、一連の動きを終えると、アルヴィンは木剣を下ろした。

そして、ようやくこちらに気づいた。

「あっ……セレスティア様?」

先ほどまで鋭い気配をまとっていた少年は、まるで別人のように柔らかな表情を浮かべた。

「いつからいらっしゃったんですか?」

「つい先ほどです」

セレスティアが答えると、アルヴィンは少し申し訳なさそうに頭を下げた。

「すみません。素振りに集中していて、気づきませんでした」

「いえ、お気になさらないでください」

「それに……朝から、こんなつまらないものをお見せしてしまって」

アルヴィンは、少し恥ずかしそうに頬をかいた。

先ほどまでの見事な剣さばきを見ていたセレスティアは、思わず目を瞬かせた。

(つまらないもの……?)

あれほどの動きをしておきながら、本人はそう思っているらしい。

セレスティアは、目の前の少年を改めて見つめた。

剣を握っていたときの鋭さと、今の穏やかな雰囲気。

その落差に戸惑いながらも、彼女の中でアルヴィンへの興味は、さらに深まっていった。

* * *

その後、二人は屋敷に戻り、朝食をとった。

食事を終えると、アルヴィンとセレスティアは談話室で話をすることになった。

向かい合ってソファに座り、侍女が用意してくれたお茶を飲みながら、二人は会話を始めた。

「そういえば、セレスティア様は武術に詳しいんですか?」

アルヴィンが尋ねると、セレスティアは少し嬉しそうに頷いた。

「はい。幼い頃から訓練を受けています」

「そうなんですね。実は、先ほどセレスティア様がいらっしゃったことに、全然気づきませんでした」

「集中されていましたから。それに、アルヴィン様の素振りはとても見事でした」

「えっ? そうですか?」

アルヴィンは照れくさそうに頬をかいた。

「まだまだですよ。もっと上手くなりたいと思っています」

その言葉に、セレスティアは少し驚いた。

あれほどの動きをしておきながら、本人はまだ満足していないらしい。

「アルヴィン様は、いつ頃から武術を始められたのですか?」

「本格的に始めたのは、ずいぶん前ですね。剣だけじゃなくて、いろいろなことを試しています」

「ほかには、どのようなことを?」

「魔法の訓練もしていますし、実際にモンスターと戦うこともありますよ」

「モンスターと?」

セレスティアの目が、わずかに輝いた。

貴族の子供が武術や魔法を学ぶこと自体は珍しくない。

しかし、実際にモンスターと戦った経験があるとなれば、話は別だった。

「はい。ゴブリンなんかと戦うこともあります」

「怖くはないのですか?」

「もちろん、油断はできませんよ。相手が弱いからといって、簡単に考えるのは危険ですから」

アルヴィンは当たり前のことのように答えた。

セレスティアは、その言葉を心に留めた。

武術の腕だけではない。

戦いに対する考え方にも、年齢に似合わない慎重さがある。

その後も、二人はモンスターの種類や戦い方について話をした。

やがて話題は王都での暮らしや、貴族の間で流行していることなどへ移っていった。

アルヴィンは王都を離れてからの生活について話し、セレスティアは王都で見聞きした出来事を話した。

特別な話題がなくても、会話は途切れなかった。

セレスティアにとっても、アルヴィンは思っていた以上に話しやすい相手だった。

そして、しばらく雑談が続いた頃。

セレスティアは、頃合いを見計らって話題を変えた。

「そういえば、アルヴィン様。少し珍しいものを持っているのですが、ご覧になりますか?」

「珍しいもの?」

「はい。魔道具なのですが」

「魔道具ですか?」

アルヴィンの表情が、ぱっと明るくなった。

「ぜひ見せてください!」

その反応に、セレスティアは思わず微笑んだ。

魔道具そのものを見るのが初めてなのだろう。

興味津々といった様子で身を乗り出すアルヴィンを見て、彼女は懐から小さな箱を取り出した。

蓋を開けると、中には美しい装飾の施された腕輪が収められていた。

「これは、バングルと呼ばれるものです。手首にはめて使うそうです」

セレスティアは箱から取り出し、アルヴィンに見せた。

金属の表面には細かな模様が刻まれており、装飾品としても十分に美しい。

「へえ……。これが魔道具なんですね」

アルヴィンは、興味深そうに眺めた。

「どんな効果があるんですか?」

「身につけると、光るそうです」

「光る?」

「はい。私も詳しいことは知らないのですが、手首にはめると小さな光が一瞬だけ現れるそうです」

「へえ! 面白いですね」

アルヴィンは、バングルをじっと見つめた。

魔道具といえば、何か特別な力を発揮するもの。

目の前のバングルが、いったいどんな仕組みで光るのか気になって仕方がなかった。

「アルヴィン様も、試しにはめてみますか?」

セレスティアは、ごく自然な調子で勧めた。

しかし。

「えーと……どうしようかな?」

アルヴィンは、すぐには手を伸ばさなかった。

セレスティアは内心、少し驚いた。

興味を持ってくれることは予想していたが、まさか警戒されるとは思っていなかったのだ。

「別に、悪いものではありませんよ?」

そう言ってみるものの、アルヴィンはまだ考え込んでいた。

「うーん……。もし、はめたら取れなくなるとか……」

「え?」

「それか、はめた瞬間に婚約が確定するとか、そんなことはない?」

セレスティアは、一瞬ぽかんとした。

そして、次の瞬間。

「ふふっ……」

思わず、小さな笑い声が漏れた。

「す、すみません。笑うつもりはなかったのですが……」

セレスティアは口元を押さえ、慌てて謝った。

まさか、魔道具を前にそんな心配をするとは思わなかったのだ。

「いえ……。だって、そういう不思議な道具があってもおかしくないでしょう?」

アルヴィンは、少しだけ不満そうに言った。

「確かに、そうかもしれませんね」

セレスティアは笑みを残したまま頷いた。

「でも、大丈夫です。ただ光るだけですから」

「本当に?」

「はい。少なくとも、私が聞いている限りでは」

最後の言葉に、アルヴィンはわずかに考えるような表情を浮かべた。

だが、目の前のバングルへの興味が勝ったらしい。

「……そこまで言うなら、試してみようかな」

アルヴィンは、そっとバングルを手に取った。

そして、手首にはめる。

その瞬間だった。

バングルが、光を放った。

「おおっ!」

アルヴィンは思わず声を上げた。

光は、直視できないほど眩しいわけではない。

しかし、部屋の中でもはっきりと分かるほど明るく、バングル全体から淡い輝きが広がっていた。

アルヴィンは手首を動かし、さまざまな角度から眺める。

「すごい……。本当に、はめるだけで光るんですね」

その表情は、すっかり魔道具に夢中になった子供そのものだった。

「これ、ランプの代わりに使えそうですね」

「ランプ、ですか?」

「はい。これくらい明るく光るなら、暗い場所を照らすのにも使えるかもしれません」

アルヴィンは、実用的な使い道を考え始めていた。

セレスティアは、その様子を静かに見つめていた。

父から頼まれたことは、ただ一つ。

アルヴィン様がバングルを身につけたとき、光るかどうかを確かめること。

そして、今。

バングルは、確かに光を放っている。

目的は達成できた。

けれど、セレスティア自身は、この魔道具にどのような意味があるのか知らされていなかった。

なぜ、父はアルヴィンにこれを身につけさせたかったのだろう。

なぜ、光るかどうかを確認する必要があったのだろう。

考えても、答えは出なかった。

ただ一つ、気になっていることがあった。

この魔道具は、ノルディア王家に関係するものなのではないか。

確かな根拠があるわけではない。

それでも、父の態度や今回の依頼を考えると、そう推測するのが自然に思えた。

セレスティアは、バングルを興味深そうに眺めているアルヴィンへ視線を戻した。

目の前の少年は、何も知らない様子で光の具合を確かめている。

この輝きに、どのような意味が隠されているのか。

それを知るのは、もう少し先のことになりそうだった。