転生したのでしょうがなく 011 立ち回る | aitocolab ブログ 
一方、その頃。

エレナも、エレナなりに動いていた。

エレナはあくまで王宮勤めの侍女だ。

実家であるモーリス男爵家の領地経営に、直接関わっているわけではない。

領地を治めているのは父のモーリス男爵。

そして、長男である兄が父を支えている。

ただ。

エレナには、アルから聞いた話があった。

だから時々、実家へ手紙を送っていた。

「こういう方法もあるのでは?」

「こうした方が、少し費用を抑えられるかもしれません」

そんなふうに、アルから聞いたことを
ぼかして伝える。

もちろん。

「アル様から教えていただきました」

などとは、絶対に言わない。

三歳の王子が領地経営について色々と考えているなど、知られるわけにはいかなかった。

モーリス男爵も、最初は不思議に思っていた。

だが。

エレナから伝えられた案を試してみる。

すると、少しずつ領地の状況が
良くなっていった。

商売を小さく始める。

収入が増えたら、必要な場所へ
少しだけ投資する。

道や橋を直す。

人が行き来しやすくする。

そして、また少し収入が増える。

劇的な変化ではない。

それでも。

以前より確実に、領地は良くなっていった。

モーリス男爵は、ある時からこう考えるようになった。

――アルヴィン殿下の周囲が、密かに助けてくださっているのではないか。

実際には、そんな派閥など存在しない。

アル本人は、王位争いに関わるつもりなどない。

エレナも、そんな派閥を
作っているわけではない。

ただ。

モーリス男爵からすれば、
娘が王子の側に仕えている。

その娘から、時々妙に的確な
話が送られてくる。

そして、その通りにすると
領地が少しずつ良くなる。

そう考えるのも無理はなかった。

そして。

領地が良くなってくると、今度は別の問題が出てきた。

他の没落しかけた貴族たちが、モーリス男爵家に近づいてくるようになったのだ。

「最近、領地の景気が良いそうですな」

「何か良い方法でも見つけられたので?」

そんな話を持ちかけてくる者が増えた。

中には、娘を通じて関係を
作ろうとする家もあった。

エレナは、そこでも慎重に相手を見た。

全員を拒絶する必要はない。

真面目な家もある。

ただ運が悪く、領地経営に苦しんでいるだけの家もある。

そういう家とは、
むしろ仲良くしておいた方がいい。

そして。

その中から、信用できる家の娘たちを
王宮へ呼び寄せるようにした。

もちろん、いきなりアル様の側に
置くわけではない。

まずは王宮での礼儀作法。

貴族としての常識。

侍女として必要な教育。

覚えてもらうことは多い。

それでも。

他の派閥に近づかれるよりは、ずっといい。

アル様の周囲にいる人間を、
少しずつ信頼できる者で固めていく。

エレナは、そんなことを考えていた。

そして、もう一つ。

エレナには、自分と同じような
境遇の侍女たちもいた。

アル様を暗殺するよう命じられた者たちだ。

彼女たちも、エレナと同じように失敗した。

そしてエレナは、彼女たちを説得した。

家族を守るために、仕方なく命令に従った者。

断れば家族に危害が及ぶと脅されていた者。

自分自身が同じ立場だったからこそ、
エレナには分かった。

だからこそ。

彼女たちを切り捨てるのではなく、
こちら側へ引き入れた。

こうして。

エレナの周囲には、少しずつ信頼できる人間が増えていった。

本人であるアルは、そんなことなど知らない。

今日も三歳児らしく、暇を持て余している。

エレナはそんなアルを見ながら、
静かに思っていた。

――アル様が大きくなるまで。

私にできることは、やっておこう。

それが、今の私にできることなのだから。