最終確認を行います」
おじさんは、
書類を手元に引き寄せた。
「現在お持ちのポイントを
全額使用します。
よろしいですね?」
「はい」
「一度実行すると、
取り消しはできません」
「分かっています」
「本当に?」
「……念押しが多いですね」
「それだけ、
前例の少ない手続きですので」
おじさんは、
困ったように笑った。
俺は、
少しだけ緊張していた。
正直、
勝てる自信なんてない。
ただ、
このまま少ないポイントで
異世界へ行くよりは、
何か変化が欲しかった。
「では、
実行します」
おじさんが、
書類に手をかざす。
その瞬間、
目の前に光が浮かんだ。
数字が現れる。
そして、
ゆっくりと動き始めた。
「……おお」
思わず声が出る。
数字は、
上がったり下がったりを繰り返す。
俺には、
何がどうなっているのか
さっぱり分からない。
やがて、
数字の動きが止まった。
画面を見つめている。
俺も、
その数字を確認した。
「……え?」
一桁。
二桁。
三桁。
いや、
そんなものではない。
桁が多すぎて、
すぐには理解できなかった。
おじさんの目が、
数字に釘付けになる。
(……なんだ、これは)
(こんなポイント数、
見たことがない)
頭の中で計算を始めた。
(使いようによっては、
世界のバランスを崩しかねない)
(強力な能力を得るだけなら、
まだいい)
おじさんの背中に、
冷たい汗が流れる。
(しかし……)
(これは正規の手順で
獲得したポイントだ)
「合ってます?」
「…………」
おじさんは、
画面から目を離せなかった。
(どうするも何も、
手続き上は認めるしかない)
(本人の権利を、
こちらの都合で奪うことはできない)
(だが、このまま渡せば……)
「おじさん?」
その声で、
おじさんは我に返った。
「こ、これは……」
おじさんの顔が、
みるみる青ざめていく。
「何か問題でも?」
「問題というか……」
おじさんの手が震えている。
「これは、
本当にあなたのポイントです」
「……ということは?」
「賭けは成功です」
「おお!」
思わず声が出た。
「成功したんですね!」
「はい。
成功しましたが……」
おじさんは、
そのときだった。
ガタンッ!
おじさんが、
椅子から滑り落ちた。
「うわっ!」
慌てて立ち上がる。
「大丈夫ですか!?」
おじさんは、
床に手をついたまま、
しばらく動かなかった。
「……腰が」
「腰?」
「腰が抜けました……」
「ええっ!?」
俺は、
どうしていいか分からず、
その場で立ち尽くした。
おじさんは、
なんとか椅子に手をかける。
しかし、
立ち上がることができない。
「いや、
そんなに驚くことですか?」
「驚くことです!」
おじさんは、
珍しく大きな声を出した。
「このポイントは、
通常の転生者が
一生かかっても
手にできるものではありません!」
「……そんなに?」
「そんなにです!」
おじさんは、
もう一度画面を見た。
(本当に、
とんでもないことになった……)
俺は、
改めて数字を見る。
さっきまでのポイントとは、
比べものにならない。
これだけあれば、
書類にあった能力も、
かなり自由に選べる。
「……あの」
「はい……」
「これ、
俺が使っていいんですよね?」
おじさんは、
床に座ったまま、
ゆっくりと頷いた。
「もちろんです。
あなたが獲得したポイントですから」
「それなら、
ちょっと相談したいことがあります」
「……相談?」
「はい。
能力を選ぶだけじゃなくて、
転生する時の仕組みそのものを
変更できませんか?」
「…………」
おじさんの表情が、
一瞬だけ固まった。
(システムそのものに干渉する?)
(そんなことが可能なのか……?)
(いや、そもそも
本人にそんな発想があるとは)
おじさんは、
胸の内に湧き上がる疑問を
押し込めた。
今はまだ、
可能かどうかも分からない。
それに、
相手の希望を聞かずに
判断するわけにもいかない。
「……なるほど」
おじさんは、
ゆっくりと姿勢を整えた。
「具体的には、
どのような変更をお考えですか?」
声は落ち着いている。
表情も、
先ほどよりは平静を取り戻していた。
ただ、
膝の震えだけは
まだ少し残っている。
「ええと、
まずはですね……」
俺は、
考えていたことを
一つずつ話し始めた。
つづく