私達の生活を支えていたのは紛れもなく母の内職でした。父の収入が得られない以上、母の仕事の仕上がりが日々の生活を左右するのです。

ですから、毎日の食事も母の腕に頼るしかありません。

しかも、必ずしも収入が多い訳でも無いのです。 時には食べずに済ます事も度々でした。

人間水さえあれば一日や二日は食べ無くても死ぬ事はないとよく言われました。
 
僕がそうでした。 胃が小さいのか、二~三日、食べなくてもお腹が減らないのです。

でもそれは人によると思うのです。
ある時、兄と妹がお腹を空かせて、母に催促していました。

母の仕事が仕上がらず、今日は無理だと感じていたのですが、 母が財布の中を確認してくれと、言うので、探してみた所、五円玉が一個見つかりました。

みんな大喜びです母が僕に用事を頼みました。

初めての事です。
焼き芋を買いに出かけました。 兄は何度か経験済みです。 今度は僕の番です、兄に負ける訳にはいきません。

今日の食事は甘くて美味しい、メインデイシユの焼き芋です、その一本を買つて来て、母と兄と私、妹の四等分です。

そんな時は母は決して食べません。私も食が細くて食べなくてもお腹が減らないのです。
母に見つからないよう、 兄と妹によくあげました。

着いた焼き芋屋さんは、陶器製の大きな壺の中で焼き芋を焼いていて、中には灰が一杯つまっていました。

ついに私は皆を代表して、大事なお使いを頼まれるようになり、 自分が少しづつ大人に近ずいて来たように感じられて、 

嬉しさと、高揚感でいつぱいでした。母の役に立てる事がとても嬉しかったのです。

私は早く焼き芋が出来ないか、流行る心で、大事な五円玉のギザギザの側面で壺の縁を、小刻みに叩いていました。

その時です、指から五円玉が、あっという間に灰の中へ滑り落ちていきました。

私は店主に言いました。すみません、焼き芋を買う五円玉が灰の中に落ちてしまいました。

店主は本当に落としたのか、どこか 足もとにでも落ちて無いのか、 灰の中ではどうしようもない。何度も頼んだのですが、

本当にもって来たのか、お金を払ってくれないと、と言われてそれ以上は何も言えませんでした。

家へ帰って来ましたが、中に入る事が出来ません。皆が、私が焼き芋を買つて帰るのを楽しみに待っているのです。 

お腹を空かせた皆の顔が浮かんで来て涙が出てきました。 私のせいで食事も出来なく、財布の中の最後の五円玉でしたので、お金も、もうありません。

私は皆に酷い事をしてしまつたのです。このまま黙って何処かに姿を消してしまいたい。

でも出来る事なら皆に誤つてからにしたい。
恥ずかしさと責任の重大さを、子供ながら感じて外で暫く立ち尽くしていました。

その時です、何か感じたのか母が顔を出しました。 そんな所で何してんの、早く入りなさい。 

私が何か買って来た様子も無く、涙を浮かべながら怒られるのではないかと、 おどおどしていたので、何か、察したのでしよう。

事の顛末を母に話しました。
母は叱りませんでした。
私がお使いを頼んだのがいけなかったんだね、

お母さんのせいだから気にしないで、その代わり皆には誤つてね、お母さんからも皆に誤つておくからね。

母は用事があるので、少し待っててね、と言って出かけていきました。

暫くして母が大きな袋を抱えて、帰って来ました。袋を開けるとリンゴが一杯入ってました。

みんなで、これどうしたの、食べて良いの、母の頷く笑顔でみんな大喜びでした。先程の私のせいで漂っていた嫌な空気が一変です。

私さ複雑な心境でした。でも皆の笑顔で少し救われた気がしました。

近くの八百屋で買って来たのですが、不思議な事は、お金はどうしたのかです、その訳は直ぐ解りました。

その八百屋は南向きで、太陽のせいで果物がながく持たないのです。そういう物は大きな籠に、一山いくらで安くしているのです。

母は只でもらって、来たのです。そのリンゴは手でも簡単に剥けて腐った所を取り除くと、薄皮一枚に少しのこる程度でした。

それでも、皆でワイワイ言いながら楽しく、食べられる所を集めて、食事会です。

母はその光景を見ながら涙を拭っていました。それからは時々、私達にも八百屋さんからのプレゼントが有りました。

八百屋さんには感謝しきれません。
それからは………