私がバスルームから出てくると、
彼はなぜかソファの前で立っていた。
不安そうな表情で。
どうしたんだろう……もしかして……
私「どうしたの?座ってて良かったのに」
と私は微笑んだ。
彼は様子を伺うように私に近づき……
坂本「あのさ……」
私「うん」
私はバスタオルで
まだ少し湿り気のある髪を乾かしながら
彼を見上げた。
彼の手が私の髪に伸びる。
坂本「……まだ、少し濡れてる……」
なぜかバスタオルごと
わしゃわしゃと拭かれた。
私「あ、ありがとう」
坂本「うん」
彼は私の手を取り、
坂本「ちょっと、いい?」
彼に引っ張られ、ソファに並んで腰かけた。
彼は私の顔を覗きこむと、
坂本「○○は……何が不安?」
私は黙りこんだ。
なんと言って良いか分からない。
坂本「もし……これから先、○○が不安になることがあったとして、今、俺が一番大切に想ってるのは○○だけだから……一人で抱えこまないで、いつでも俺を、頼って欲しい……」
私「うん……」
ダメだな……こんなこと彼に言わせるのは……
私「私、昌行のこと好き……だから、信じてる」
好きだから一緒にいたい。
好きだから信じられる。
私「そういえば、何にも出してなかったね!!お茶、入れるね!」
すくっと立ち上がった、
すると、その手を掴まれ、
坂本「待って、俺が淹れる」
私「ダメだよ、私の家なんだからっ」
そのままじゃれるようにキッチンへ行き
食器棚を開けると、
彼のお誕生日の日にペアで揃えた
陶器のコップがふたつ並んでいた。
坂本「あ……」
私はそれを指し、
私「せっかくだからこれ、使お」
何となく勿体無い気がして、
まだ使わずにいたのだ。
私が取ろうとすると、スッと、
頭の上から彼の手が伸びる。
彼はふたつのコップを手に取ると、
坂本「やっぱいいねぇ、この色……」
まじまじとコップを見つめる。
坂本「……ん?」
彼は食器棚の奥で何か見つけたらしい。
私の目線より上にある棚で、
私の身長だとどうしても視界に入りづらいところだ。
私「どうしたの??」
坂本「ん、なんかある……」
彼は再び棚に手を伸ばし、
坂本「取れた……」
私に手の中の物を見せてくれた。
彼の手のひらの上で光る、
優しいピンク色の石。
私「あーっ」
引っ越しの時に無くしたと思っていた
ローズクォーツがこんなところにあるなんて!!
仕事先でお土産にと頂いた物だった。
私「わー、無くしたと思ってた‼ローズクォーツの天然石だよ」
坂本「へぇ……こんな所に……良かったねぇ見つかって」
私は思わず彼に抱きついていた。
恋のお守りとも言われるローズクォーツを、
彼が見つけてくれたことが何より嬉しかった。
坂本「な、どうした?いきなり?」
彼は照れたように笑う。
私「何でもない、ヒミツ」
ローズクォーツが恋のお守りだって、
何となくヒミツにしておきたかった。
坂本「え~ヒミツかよぉ、さっき、何でもって言ったよねぇ!?」
拗ねた彼を置いて、
私はリビングに急いだ。
私「ふふっ お茶、よろしくね、昌行くんっ」
坂本「んだよそれっ」
二人の笑い声が部屋に響く。
テーブルの上で、
優しいピンク色の石がキラリと光った。