こんにちは、龍円あいりです!
2024年を「東京のインクルーシブ教育元年にしたい!」という想いでおります。
そこで、11月に都民ファーストの会の伊藤悠都議と一緒に、兵庫県伊丹市にある兵庫県立の阪神昆陽(こうや)特別支援学校と阪神昆陽高等高校を視察してきました。
スペシャルニーズ(障害)のある子もない子も、共に学び育つインクルーシブ教育を進めるために、公立高校と特別支援学校を、同じ敷地内で一体的な運用している学校です。視察をアテンドしてくださったのは、両校の校長である沖良宣さんです。
学校名が長いため、兵庫県立阪神昆陽特別支援学校については以下「特別支援学校」とし、阪神昆陽高等高校については「高校」と書きますね。
特別支援学校と高校は同じ敷地内にあります。
青色枠が特別支援学校の校舎です。赤枠が高校の校舎です。
特別支援学校と高校の間を行き来するには一度外に出る必要がありましたが、屋根が付いている通路で繋がっており、上履きのまま気軽に移動できるようになっていました。体育館やプールは共用でした。
<兵庫県立阪神昆陽特別支援学校>
この特別支援学校は、知的障害のある高校生のための学校でした。国語、数学、理科、社会、外国語、体育、音楽、美術、情報などの教科学習があるほか、職業に必要な能力や態度を身につける3つのコースがあり、選択制でした。
・流通サービスコース
・食品加工・農園芸コース
・福祉・介護コース
(学校HPより)
知的障害特別支援学校ではありますが、生徒の皆さんは、入試を経て入学していました。東京都だと「都立特別支援学校・就業技術科」のような位置付けの学校です。障害の程度について具体的には伺っていないものの、軽度の知的障害がある生徒が学んでいると見受けられる学校でした。(ダウン症のあるお子さんいないとのことでした)
<兵庫県立阪神昆陽高校>
高校は、働きながら学ぶ生徒や中途退学者の学び直し、自分のペースで学びたい生徒など、幅広いニーズを持つ生徒が、それぞれの興味・関心等に応じて主体的に学ぶことができる多部制の定時制高校です。
視察した際には、学び直しの要素がある授業や、薬物を利用してはいけないことや、Z世代といった社会的な事象について扱っている授業となっていました。
<ノーマライゼーションを理念にした学校>
兵庫県教育委員会のHPによると、この学校は「ノーマライゼーション」を理念に掲げた学校を運営しています。
「ノーマライゼーション」とは、スペシャルニーズのある人と、ない人が、平等に生活する社会を実現させる考え方です。インクルーシブという言葉は使われていませんでした。
<インクルーシブな取り組み>
① 学校設定教科「共生社会と人間」
高校が独自に設定している教科に「共生社会と人間」というものがありました。この教科では「様々な障害に対する関わり方、援助方法についての基礎的知識を習得し、障害者と健常者との共生社会に貢献できる人づくりを目指します(HPより)」ということでありました。
(学校HPより)
特に高校1年生は、全生徒が「ノーマライゼーション」という授業を週1回受講することが決まっているそうです。
特別支援学校の教員、社会福祉協議会や地域のNPOなど外部の講師を招いて各障害について学び、車椅子やボッチャなど様々な体験をするほか、LGBTQ等の障害以外のマイノリティとされる方々について学びながら、インクルーシブ(共生)社会について学びを深めます。
年1回は「ノーマライゼーション発表会」を開催して、学んだことを発表されています。発表会の様子については、沖校長のブログに紹介されています。こういうことを学校を挙げてやってくださっていると知っただけで、目頭が熱くなります。
② 高校と特支の1年生は美術と体育を"共同"で実施
「特支の生徒が、高校の授業に参加する」のではなく、最初から授業を特支と高校が共同で実施するというのは全国でも珍しい取り組みだと思います。高校生は「共生社会と人間」で知識を深めている中で、共同での授業はその実践的な授業ということになりますね。
③ 週3時間の「共同学習」がカリキュラム化
特別支援学校の2年生と3年生は、カリキュラムとして「高校との共同学習」が設定されていました。週3時間、高校のどのクラスを受講するか、生徒自身で決めていました。
共同学習においては、特段サポートを受けることなく、自立して参加していました。
どの生徒が共同学習として参加しているかは、一見では分からないほど、特別なことではなく普通のこととして授業が進められていました。
この高校は授業が”選択制”のため、授業ごとに参加する生徒が変わることもあり、共同学習をしている生徒が際立って目立たないという要因もあったと思います。
特別支援学校の教員が、各教室を巡回しながら共同学習について見守りながら、その様子をメモしていました。
東京都の副籍交流は年1-2回
東京都においては、特別支援学校の児童生徒は、住んでいる地元の公立小中学校に「副籍」を置いて、希望すれば年に1-2回程度の「副籍交流」が実施されます。
副籍交流には2種類あって、「直接交流」と「間接交流」があります。
直接交流は、副籍のある学校に行って、授業に参加することもあれば、学芸会や運動会等のイベントに参加するというものです。最初は特別支援学校の教員が付き添うこともあるようですが、多くの場合は、保護者が副籍交流に付き添うことになります。(そのため仕事している両親の場合は、難しいことも少なくありません。)一般的な回数としては、年1-2回が主流です。非常に多いとされるケースでも月1回程度に留まっています。
間接交流は、双方の学校間で、配布される学級向けのプリントなどを交換するようなものになっています。
東京都の現状と比較すると、兵庫県阪神昆陽特別支援学校における週3時間の共同学習というのは驚異的です!まさに「日常的」かつ「継続的」なインクルーシブな環境における学びが可能となっていると言えます。
④高校生が特支の授業を受講
高校の生徒が、特支の授業に参加するという共同学習についても実施しているとのことでした。
⑤高校で支援が必要な生徒には「通級指導」
高校の生徒にも発達障害など、支援を必要としている生徒もいるということで「通級指導」も行なっているとのことでした。また通級指導の取り組みの成果によっては「単位」として認めているとのことでした。通級指導は高校在籍生徒にとってよりインクルーシブな学びを可能とするものです。
⑥身体障害のある生徒も高校に在籍、介助員を配置
車椅子ユーザーの生徒が数人ほど高校に在籍しているようでした。兵庫県教育委員会から介助員の予算がついていました。学校内のバリアフリーについても整備されていました。
<インクルーシブな取り組みの成果>
(沖良宣校長からヒアリング)
高校側の成果―生徒らが非常に安定した
沖校長の話によると、特別支援学校との一体的な運営によるノーマライゼーション教育を取り入れる前は、阪神昆陽高校は、県内でもかなり荒れている学校の一つだったそうです。
沖校長によると、以前は授業が成立していないような状況が多々あったとのことでした。しかしノーマライゼーション教育を通じて、生徒らがとても安定して授業に参加するようになったそうです。
私たちが見学させていただいた日も、どのクラスも静かに授業が行われており、生徒は集中して話を聞いている様子でした。
特支側―生徒のコミュニケーション能力と自信がついた
特支には、入学当初は、コミュニケーションを取ることに不安を感じたり、会話することを苦手だと思っている生徒も少なくないとのことです。しかし日常的な交流や共同学習を通じて、自信を持ってコミュニケーションを取れるようになっているとのことでした。
HPにて紹介されている卒業生の声としても人間関係やコミュニケーションについて触れている生徒の声が印象的です。
<その他>
教員等の相互交流に課題がありそう
高校と特支は校舎が別になっていることから、職員室が別々でした。生徒同士の日常的な共同学習が進む中で、教員同士の交流が少ないという現状でした。
共同学習は校長の権限で進めた
共同学習の制度を導入した当初は「共同学習は不要ではないか」という懐疑的な教員が、両校ともにいたとのことでした。(当時は日本初の取り組みでしたし、きっと戸惑われたことでしょう)
両校の校長が一人にしたことで、校長がリーダーシップを発揮して進められた側面があったとのことでした。
【視察を終えての感想】
日本版インクルーシブ教育の選択肢として特別支援学校との一体運営は進めるべき
障害者権利委員会からの勧告
日本は「障害者権利条約」を2014年に批准し、2022年に国連の障害者権利委員会から初めての審査がありました。その結果、分離された環境における特別支援教育をやめるように改善勧告が出されたところであります。
障害者権利委員会は以下のことを懸念しています。
(a) 障害の医学モデルに基づいたアセスメントによって、障がいのある子どもが、分離された環境で特別教育を永続的に受けていること。障害児が、普通の環境における教育にアクセスしにくいこと。特に知的障害がある子ども、精神障害がある子ども、知的障害と精神障害がある子ども、より集中的な支援を必要としている子どもにとって、普通の環境における教育にアクセスができないこと。そして普通の学校内に、特別支援学級が存在していること。
障害者権利委員会は以下のことを日本に強く促します。
(a) 分離された特別教育をやめるために、教育に関する国の政策、法律、行政上の取り決めの中で、インクルーシブ教育を受ける障害のある子どもの権利を位置づけ、すべての障害のある幼児児童生徒が、すべての教育段階において合理的配慮と必要な個別的な支援を受けられることを保障するために、質の高いインクルーシブ教育に関する具体的な目標、スケジュール、十分な予算を含めた国家行動計画を採用すること。
(b) 障害のあるすべての子どもたちの通常の学校へのアクセスを確保し、通常の学校が障害のある幼児児童生徒の通常の学校への在籍を拒否することを許さないための「非拒絶」条項と政策を導入し、特別支援学級に関する通知を撤回すること。
(c) 障害のあるすべての子どもたちが、個々の教育的ニーズを満たし、かつインクルーシブ教育を確実に受けられるための合理的配慮を保障すること。
(d)インクルーシブ教育について、通常教育の教員および教員以外の教育関係者の研修を確保し、障害の人権モデルについての認識を高めること。
(e)点字、イージーリード、ろう児の手話教育、インクルーシブ教育環境におけるろう文化の促進、盲ろう児のインクルーシブ教育へのアクセスなど、通常の教育環境における拡張・代替コミュニケーション様式および方法の使用を保障すること。
(f) 大学入試や学習過程などを含む、高等教育における障害のある学生の障壁に対処する、国家的な包括的政策を策定すること。
障害者権利委員会からは最も強い勧告として「分離した環境での特別教育をいずれやめるように」ということでした。
日本では特別支援学校の児童生徒が増加
権利委員会が強い懸念を示す背景には、日本では特別支援学校という「分離された環境」で学んでいる児童生徒の数は増加の一途を続けています。
2023年8月の文科省の学校基本調査では、小学校と中学校の在籍者数は過去最少となっている一方で、2023年年度の特別支援学校に通う児童生徒は15万1358人と過去最多になったことが明らかになりました。
東京都においても、都立特別支援学校の児童生徒の増加に伴い、知的障害特別支援学校を中心に新設・増設が続いています。
文科省の検討会報告
インクルーシブ教育は「万人のための教育」とも言われています。インクルーシブ教育は「障がいのある子のための一つの教育法」ではなくて、すべての子どもたちにとっての教育という意味です。
インクルーシブ教育を、通常の学級に在籍する一部の障がいのある児童生徒だけのこととすべきではないと考えています。むしろ特別支援学校にいる児童生徒が、どうやったらインクルードできるのかという点から考えていくべきです。
そう考えた時に、現実的な第一歩は「特別支援学校はそのまま継続しながらも、在籍する児童生徒が、日常的にインクルーシブな環境で学び過ごすことができるようにする」ことであると考えます。
2022年3月、文科省における「通常の学級に在籍する障がいのある児童生徒への支援の在り方に関する検討会」から出された報告の中に、「インクルーシブな学校運営モデルの創設」として、特別支援学校と小中高等学校のいずれかを一体的に運営することが挙げられています。
同じ敷地内にあることと、カリキュラムを工夫することで、特別支援学校であっても、日常的なインクルーシブな環境での教育が十分に可能であることが分かりました。
⇨これらを踏まえ、東京都においても都立特別支援学校と、区市町村の小中学校や、都立高校との一体的な整備運営を進めていくことは、非常に重要なことであると考えます。
一体的な運用に適しているのはどんな学校か
兵庫県立阪神昆陽特別支援学校と、阪神昆陽高校の場合、勉強が苦手な高校生と、軽度の知的障害のある特支の生徒たちが、学校内で交流・共同学習を進めています。そのため高校の授業内容に特支の生徒が参加しやすく、また特支の生徒は非常に軽度の知的障害ということもあり個々への介助や支援が不要なため高校側への負担も少なく、一体運用が進めやすいという状況にありました。これはあくまで教育する側の事情からのマッチングさせた側面が大きいとはいえ、一定の効果が出ていました。
しかし、東京都においてどのような学校同士を一体運用するべきなのかを考える際には、インクルーシブ教育を通してインクルーシブな社会を実現していくという目的を踏まえて、生徒側の目線で、一から考えていく必要があると感じました。
都立特別支援学校の中でも軽度の知的障害がある生徒が通う「就業技術科」や「職能開発科」のある学校と、都立高校との一体的な開発をする場合、兵庫県の例に倣えば「チャレンジスクール」等との連携が挙げられると思います。しかし、特支の生徒たちの可能性をより広げることができる可能性を考えると、農業科、工業科、商業科など、職業に特化した専門性のある教育をしている都立高校との一体運営を対象として考えたほうがより良いかもしれません。
また子どもたちの心の柔軟性が高い公立小学校と、特別支援学校との一体的運営は是非とも進めるべきだと考えます。
中学校の場合は、生徒らが思春期で、人間関係についても複雑化し、高校受験への準備もある中で、中学校だけ単体での一体的運用は難しさがありそうです。数は少ないですが公立小中一貫校と特別支援学校との一体運営が望ましいのではないかと思います。
視覚障害特別支援学校や、聴覚障害特別支援学校についても、一体運用が十分に可能であり、インクルーシブ社会においては重要なことだと考えます。
特別支援学校と普通学校の双方に経験がありインクルーシブ教育への理解が深い教員の存在が必要
この視察を通じて、一体的な運用をする上で、最も重要な要素だと感じたのが、特別支援学校の教員と、普通学校の教員も、日常的にコミュニケーションをする環境にすることです。
特別支援学校の教員と、普通学校の教員も、長年「分離した環境」にて働いてきたのですから、さまざまな面で違いがあるはずで、「教員同士だからすぐ理解し合えるでしょ」というものではないかと思いました。
東京都において、特別支援学校と普通学校を一体的に運用する場合は、日常的に双方の学校の教員同士が情報交換や交流することができ、「仲間」となれる環境が重要だと感じました。
東京都教育委員会では、特別支援学校と地域の公立小中学校の教員間で、3年間または1年間の交流人事をしています。東京都において一体的な学校を運営するとしたら、双方の学校での教育経験がある教員が中心となって担っていくことが非常に重要であると考えております。
(阪神昆陽学校の食堂で、伊藤悠都議と一緒に給食をいただきました)
非常に意義のある視察をさせていただきました!
兵庫県立の阪神昆陽特別支援学校と阪神昆陽高校の皆様、沖校長先生、誠にありがとうございました。
東京都議会での今後の質疑に反映させて参ります。