東京都の特別支援教室
東京都では区市町村の全ての公立小中学校に「特別支援教室」配置
以前は通常の学級に在籍していてコミュニケーションスキル等で支援を必要としている発達障害等のあるお子さんが「通級指導」を受けるためにわざわざ他の学校まで移動して支援を受けていました。それを全ての学校内に「特別支援教室」が設置されて、特別支援教室の先生の方が巡回してくれることで、児童生徒が支援を受けやすくなりました。
「原則の指導期間1年」って、2年目以降使えないの?
特別支援教室をどのように運用すべきなのか、東京都ではガイドラインを策定しています。
そのガイドラインを見ると、原則の指導期間を1年としています。
この原則を、一部の区市町村教育委員会から「1年しか使用してはいけない」と厳しく運用しているところがあり、「まだ支援が必要なのに特別支援教室が利用できなくなってしまう。困ってます」というお声をいくつか頂戴いたしました。
2年目以降も必要な児童生徒は利用継続ができます
必要があるお子さんは2年目以降も継続的に利用できます。
運営ガイドラインを見てもらえると、右下に「指導延長」と書いてあります。
どのような場合に指導延長できるのかということも、記載されています。
こちらを見ていただくと分かるように、入室した目標が1年で達成できなかった場合は、2年目も延長ができます。3年目以降の場合については、改めて判定委員会を開催して決定されれば利用を継続することが可能です。
もし、まだ特別支援教室の利用を続ける必要が明らかなのに、「原則1年だからもう使えません」ということで利用継続を断られている方がいましたら、改めて、このガイドラインにあるように「指導延長」の手続きをしたい旨、伝えていただくようにしてみてくださると嬉しいです。
なぜ原則1年なのか?
この「原則1年」というのは、特別支援教室を利用させない・させにくくするために作ったものではなく、「特別支援教室の質を向上させるため」に設定されていると私は理解しています。
ただ漫然と特別支援教室の利用を続けるのではなくて、「目標」を立てて、1年ごとに「目標の達成具合」を確認することで、次の1年をどうするかを話し合うというステップがあることで、子どものニーズの把握、指導の内容もよりよくなっていくという目的のためのものだと思います。
一部の区市町村でもし「原則1年だから問答無用に利用終了」というような運用がされてしまっているとしたら、情報が誤解して伝わっている可能性があります。
文教委員会質疑
2022年2月10日の文教委員会で、東京都内の区市町村小中学校に配置されている「特別支援教室」に関して質問をしましたので、ここに記載しておきます。
こんにちは。
(東京都議会の文教委員会に付託されている)「特別支援教室の教育条件の改善に関する陳情」について質問をさせていただきます。
私は、インクルーシブ教育は万人のための教育であるという理念の下、スペシャルニーズのある全ての児童生徒が、在籍する教育の場がどこであろうと、通常の学級の中で日常的かつ継続的に共に学び育つインクルーシブな教育の実現を目指して、これまで質疑を続けてまいりました。
2021年末の(文教委員会の)質疑でもお話しさせていただきましたが、現在の日本、東京の教育現場には、あらゆることが複合的に重なって、スペシャルニーズのある児童生徒が、まるで遠心分離機で振り分けられているかのような遠心力が働いていて、通常学級の児童生徒たちとは物理的に別の場所で教育する分離教育が進んでいます。
分離教育をインクルーシブな教育にシフトしていくには、遠心力を生んでいる一つ一つの原因を分析して、そこに反対のベクトルの力、つまり求心力が働くように工夫をしていく必要があります。この観点から、これまでも委員会でも、一つ一つの遠心力となる要素について質疑をしてまいりました。
先日発表された「未来の東京」戦略version up2022年版の中にも、学びの場のインクルーシブを推進と明記されていまして、東京都教育庁の皆さんが見ている未来は、きっと同じ方向だと信じています。
教育現場に求心力が生まれれば、少しずつでもスペシャルニーズのある児童生徒が同じ教室の中で学び育つ姿が普通のものになっていき、そして、将来、インクルーシブな社会を担っていく世代を育てていくことを願っています。
さて、特別支援教室の配置は、都教委として、インクルーシブな教育の推進の要となる事業として進めていこうとしていると理解しております。
しかし、インクルーシブな教育推進派の人たちからは、特別支援教室に対して懸念の声も聞かれています。さらに通常の学級から分離する新しい仕組みをつくっているのかということを心配されているわけです。物理的に分離できる場所を全ての学校に整備しているわけですから、確かにこの懸念も分かります。
学校現場には、放っておけば、どんどん分離する遠心力が働いているため、運用面をしっかり詰めておかないと、分離教育を推進する政策になってしまう可能性があります。特別支援教室があることによって、スペシャルニーズのある児童生徒が通常の学級でより一層学びやすくなり、通常の学級の求心力を高めるものであるべきだという視点から質問させていただきます。
私がインクルーシブ教育について、いつも参考にしているアメリカは、スペシャルニーズのある児童生徒のほとんどが通常の学級で学んでいますが、お子さんによっては、別の教室にて個別の教育や療育を受けています。ただ、これは、法律上で非常に厳格なルールによって実施されていました。一年に一回、お子さんの成長やニーズに関するアセスメントを実施した上で、IEP、個別の教育計画を策定するために、学校の先生、支援をする教育者、療育の担当者、保護者、学校区の担当者などが一堂に会して、アセスメントを踏まえて、次の一年についてどのような支援をしていくのかを決めます。その中で、通常の学級から取り出した支援をする場合は、どのような支援をどれくらいの頻度でするのか、その支援が本当に、教室から取り出してまで実施するほど効果を上げるものなのかどうかというのを議論して決めていきます。アメリカの特別支援教育に関する法律は、一丁目一番地がインクルーシブですので、分離する場合には、それくらい慎重に実施しています。ただ、逆に見ますと、インクルーシブであるということにこれだけ重みを置いている教育現場であっても、通常学級から取り出して個別の教育や療育をすることが、そのお子さんにとってよい教育的効果があるということも分かっています。
特別支援教室に必要だと考える3要素
このことを踏まえて特別支援教室について考えると、大きく三つのことが重要だと考えています。
一番目が、一番重要ですけれども、特別支援教室での支援や指導の質です。そのお子さんを取り出してまで実施したことで、戻ってきた在籍する通常学級での生活がしやすくなった、学びやすくなったという教育的な効果が発揮されなくてはなりませんし、それが発揮されているのかどうかを確認する必要があります。
二つ目は、特別支援教室を利用する必要があるのかどうかを厳正に見極めて、一年に一度のアセスメントによって達成度を確認して、そして、次の指導方法や支援について設定していく必要があるということです。何となく、発達障害があるし、支援教室で学べばいいんじゃないか、せっかく支援教室があるんだしというような理由ではなくて、客観的に見て、明らかに特別支援教室を利用することで効果的だと説明できる必要があります。特別支援教室での教育がどのような効果があったのか、それともなかったのか、その次の一年も取り出しての支援が必要であるのかどうかを慎重に検討する必要があると思います。
そして、三つ目は、特別支援教室内で完結するのではなくて、通常の学級との連携と連続性のある指導です。この三つがなければ、特別支援教室は効果を十分に発揮しなくなってしまい、ただ、そのお子さんを分離するためだけの遠心分離機のスイッチみたいになってしまうと思います。私の見たところでは、既にこの特別支援教室を休憩する場所というふうに捉えているお子さんもいらっしゃるようです。確かに、最初は、そのお子さんにとって、通常の学級がストレスフルな場所であって、特別支援教室はそのように感じてもいいのかもしれません。ただ、特別支援教室がずっと休憩場所になってはいけないと思います。
①特別支援教室の教育の質
そこで質疑を始めていきますが、一番重要な特別支援教室の教育や指導の質についてお伺いします。これまでの文教委員会質疑でも触れてまいりましたが、特別支援学校に比べて、地域の学校の特別支援の対応力、ノウハウ、経験の差は、すごく開きがあるというのが課題になります。また、地域の学校の中で特別支援教育に従事する先生たちは、身近に頼れるノウハウがある先輩の先生が少ないとか、いないこともあって、孤独でもあります。地域の先生たちが自信を持って対応できるような、先生たちへの支援をしてほしいと話してまいりました。特別支援教室を担当している教員の中には、そのような課題を抱えている先生も少なくないことと思います。
Q. 特別支援教室の教員が自信を持って適切に児童生徒の指導に当たれるよう、教員の指導スキルの質の向上について、今後の取組についてお伺いいたします。
都教委としても、課題認識を持って、特別支援教室の教員の指導の質を上げる取組を充実するということが確認できました。
今回の陳情には、「特別支援教室の担当教員一人が担当する児童生徒の人数が10人以下になるように教員を配備すること」と求めております。
これが教員側の目線からなのか、保護者、児童生徒側からの目線の要望なのか、分からないのですけれども、もし教員側の目線で、"特別なニーズのある児童生徒を10人以上見るのは大変過ぎる"ということであるのであれば、それは現場の先生方の負担感から来ているのかなというふうに想像いたします。では、なぜ負担に感じるのかというと、支援教室に一気に10人以上のお子さんが来るわけではないので、どちらかというと、一人一人のお子さんに真摯に向き合って、その子に合った指導をするために、様々な工夫とか、ご苦労をなさっておられるのかなというふうに思います。ただ、その負担感は、人数を一人、二人減らすというよりも、教員ご自身が一人で抱え込まなくても大丈夫という教員に対する支援があることと、それから、教員ご自身の指導力が向上して、自信を持って児童生徒に対応できるようになることが重要なのかなというふうに考えています。つまり、私は、現状の都教委の対応を一層進めてほしいというふうに思っています。
また、もしこれが保護者や児童生徒側からの目線で、教員が担当する児童生徒の数がより少ない方が手厚くてきめ細やかな支援を受けられると思うから10人以下でとおっしゃっているのでしたら、確かに、指導力が足りない先生が一人で、例えば、毎日違うお子さんを五人ずつ、月曜日から金曜日まで二十五人担当するというふうになれば、やはりきめ細やかな指導は難しくなってしまうのかなと思います。ただ、私も障害児の親なので分かりますが、自分の子供に合っている指導をしていただいて、効果が目に見える形で現れていれば、ほかにその先生が何人のお子さんを担当していようが、どうでもいいということなんですよね。
だから、結局、指導力を向上していくということが、保護者、児童生徒のサイドから見たときにも重要だというふうに考えています。
アセスメントの必要性
続いて、二つ目のポイントについてお伺いしていきます。
まず、入室の段階で、特別支援教室を本当に利用する必要があるのかどうか、しっかり見極めること、そして、利用するからには、一年ごとに、ふわっとしたものではなくて、明確にこれをできるようになるというような目標を設定して、そのための指導計画を立てて、そして一年後に、アセスメントによって、それが実現できたのかどうか客観的に評価をする、評価を基に、次の一年も、引き続き特別支援教室を利用する必要があるのかどうかを慎重に検討する必要があります。
そこをきっちりしておかないと、支援教室の効果を分析せずに、漫然と利用を続けてしまうことになります。惰性の法則で、不要に長く分離され続けるお子さんが出てきてしまう懸念があると考えております。
Q. ガイドラインでは、指導の成果を振り返り、指導開始当初の指導目標の達成状況を確認することが重要というふうに規定されています。こうしたアセスメントや評価はどのように行うのか、お伺いいたします。