つい先日見たものにですね、

 

「DIC-583で指定したけど話がうまく進まない」

 

みたいなお話が出てきたんですよ。

 

DICについてご存知ないデザイナーがいたら、ちょっと補足しておきたいなと思いまして書く次第なんですけれども。

 

もしかして、DIC-583を白(または薄ーいグレー)だと思っておられる方がいらっしゃるのかな、と。

 

なるほど、そりゃ話がうまく進まないわけです。

 

 

DIC-583は無色に近い糊

DIC-583の成分はメジュームです。

 

DICのウェブサイトには

 

インキ配合: 
 FGメジューム  :  100.0
 総計  :  100.0

 

って書かれています。

コレ、絵具で言えばバインダーです。

 

水彩なら「アラビアガム」

油彩なら「乾性油」(リンシードオイル、ポピーシードオイル、サフラワーオイル)

アクリルなら「メディウム」

 

に相当します。

 

インキの色を薄めたいけれど、接着力は維持したいときに使うものですね。

言うなれば糊ですよ、糊。

 

で、ほぼ無色です。

白インキじゃない。

透明なモノ。

 

なので、そのチップで見えている色というのは

 

ほぼ紙の色

 

なんですよ。

 

印刷で使うなら、それっぽい紙を選んだ方がまだ現実味があるんじゃね? っていうカラーチップです。

印刷する意味がないもののひとつです。

 

紙面保護?

だったらUVとかPPとか、そっちのほうが現実的です。

 

どちらかというと「なんで色見本に収録した?」というものですよね、メジューム100%ですし。

インキの被覆力を落としたいなら、使う意味はあるでしょうけれども。

 

たとえば透明で重なり合うような色表現をしたい、しかも特色で、というようなもの。そういったケースは多くないんじゃないかなあと思ったりします。

だって、特注 of 特注じゃないですか。特色の透明表現って。

 

グラフィックさんとかプリントパックさんで、そういうオーダー聞いてもらえるんだろうか?

 

……たぶん無理です。(グラフィックさんは明確に無理と言ってます:後述)

 

オンラインじゃない印刷屋さんに相談しないと、受けてもらえないんじゃないかな。

 

そしていくらかかるんだろうか?

 

……なかなかしびれるお値段になると思います。

 

ネット印刷通販の価格を想定されていたら、詰むんじゃないかな。

 

逆説的に言えば、お金出せば解決する話ではあるんですよ。

 

だけど、どんなに粘ってもDIC-583単体で色指定したいというご希望は、たぶん叶えられないです。色じゃないから。

 

あるいは「意味ないですけどやりますよ?」という回答と請求書が届く。

 

閑話休題。

なんの話かと言えば、なんでDIC-583がカラーチップに収録されているか? でしたね。

 

もしかしたら経年劣化でメジュームも変色するとか?

だからチップに収録しておいてメジュームの品質を確認しておけ、みたいなこと?

 

DICに直接確認したわけじゃありませんので、本当のところはわかんないですけれども。

 

あのチップで見えてるのは紙の色ですから、それを色指定に使おうとするなら、淡色系の色が集められたDICカラーガイドPart2を使って欲しいよね、とか思うのです。

 

 

 

件のお話の方は「DICはもっていません(キリっ)」みたいな宣言をされていましたので、その色指定案件については「本気で取り組んでいなさそう」でした。

 

Pantoneと違ってDICは安価ですからね。

それでも持ってないってことですから、片手間なんじゃないかなと思います。

 

DICのPart2は、15,000円前後です。

 

昔の価格を知っている人間からしたら随分高くなったなと思いますけれども、Pantoneを揃えたらこんなもんじゃ済まない。

 

なのでちゃんと管理・指定したい人は最新版を買う。

それがカラーチップです。

 

そして以前にも書いたことですが、カラーチップは「ちぎって相手に渡すことで効力を発揮する」アイテムです。

 

メールとかLINEで番号を伝えるだけではダメなんですよ。

なんでかというと「自分と相手が持っているチップの色が違うかもしれないから」です。

 

同じ色で刷られていても、変色・褪色はあり得るんですよ。

紫外線が当たる場所に放置されたカラーチップと、暗所で保管されたカラーチップは、色が違う場合があるんです。

 

人間だって日焼けしまくりの人と、UV対策した人とでは、肌のコンディションが違うじゃないですか。

印刷物だって、インキだって同じなんです。

 

 

カラーチップはスキャンや撮影では正しい色が伝わらない

カラーチップをスキャンして送るとか、スマホで撮影して送る、というのもまったく意味がありません。

 

スキャンなら「正しい色でスキャニングされているかは保証できない」から。

撮影なら「照明の色が5000kでない確率が高い」から。

さらに「データ送信者と受信者のモニターが校正されているとは限らない」から。

両者が同じ色で見ていない確率って、めちゃくちゃ高いんです。

 

スマートフォン持ってる人を3人集めて、白い画像データを表示してみてください。

RGBが255,255,255で指定されたデータです。

たぶん全員違う色で表示されると思います。

 

 

カラーチップは版の管理が大切

ウチにあるDICは第18版です。

DIC-583は掲載されていません。(収録は19版かららしい)

 

いま販売されているカラーガイドは21版です。

 

もう買い換えないとダメですよね、というモノになります。

買い換えてない理由は、切羽詰まってないから。だけど特色案件が動いたら即買いすると思います。それくらいデザイナーにとって色見本は大切なんです。

 

経年劣化、褪色、etc. で齟齬が生まれるわけですから、オレが言ってる色はコレだ、とチップを渡すことで「ああ、なるほど」が通じることになるわけです。

うちのチップと色が違うなあ、となれば、そこから「どうしましょう?」という具体的なディスカッションができますからね。現物は最強なんです。

 

今回の件は色指定でした。

ここで気をつけなくちゃいけないのはインキの変色。

そして、紙の変色。

 

ほぼ透明なインキ補助剤が刷られたものですから、見えているのは紙の色。

紙も変色しますから、現物を渡さないと話が進みません。

 

相手のチップとこちらのチップを見比べて初めてわかることがあるからです。

 

変色しているのはインキか、紙か、あるいは両方ともなのか。

それすら判断できないまま会話したら疲れますよ、お互いに。

 

だからちゃんとモノ見て喋りましょうねということです。

 

 

 

話は変わりますけれど。

 

オートクチュールやプレタポルテのようなハイファッションのカタログでは、写真以外に服の生地の現物が印刷所に持ち込まれたりします。

 

写真はどうあれ、生地はこうなんだから、正しい色で印刷しろよな?

 

を強制する道具として現物が使われるわけです。

 

ちゃんと5000Kの色温度で光る照明の下で、印刷物と生地の色を見比べて調整することを義務付けられている感じです。

 

現物で会話しなきゃダメなんですよ、ホントに。

 

 

色指定と色見本

そうそう、DICのカラーガイド(特色チップ)を、一般的には大きく分けて2つの使い方をされていると思います。

それについても言及しておこうかと思います。

 

DICのカラーガイドは、「この色はこのインキと補助剤を、この比率で混ぜると作れます」というものです。

なので特色指定をする場合、印刷物がカラーチップの色で印刷されて仕上がってくることを期待しています。

 

プロセスカラーでC100%、M80%と指定したらブルーになってくれますよね。

DICの場合はそれを複数のインキを配合して行います。

 

色指定をする側は「期待する色がコレ」と言いますし、

印刷する側は「それならこの配合だね」と受けるわけです。

 

それがひとつ。そして、もうひとつが

 

「インキの配合なんて知らない。この色がいい」という感じで、

あくまでも「色指定をする道具」として、この特色カラーチップを使うケースです。

 

今回見かけた冒頭の「白で指定したいのにうまくいかない」は、これに当てはまると思います。

 

それは決して別に悪いわけじゃないんですよ。

具体的な色の目標として提示されているわけですから。

 

ブレをなくすための目標として使われるケースはあるんで、ヘンなわけじゃないんです。

 

ただ相互認識が共通にならないといけないので、知識がや経験が足りなかったりすると齟齬が生まれやすいですね。

また、数値としては共有できませんので、あくまでも感覚的な目標になります。

 

たとえば距離を目測で伝えても、ホントにそれだけ離れてるかはわかりませんよね。数値で示さないと正確には伝わりません。

 

チップの写真データを送って「この色」ってやってしまうと、大体失敗します。

件のお話の方は、これでうまくいっていない印象でした。

 

あと、説明が下手だとこじれます。

語彙力も上げておきたいですね。

 

そしてなによりも、DICの現物は買ってください。

それか、相手から現物を借りてください。(ちゃんと返却してくださいね)

 

 

DIC-583を色として扱わない例

グラフィックさんが13年前(2012年)にこんなツイートをされています。

 

白っぽく見える特色(DIC583)での印刷を希望されることがありますが、「メジューム」と呼ばれる透明なインキ補助剤100%でできているため、ほぼ色がない=透明に近いインクとなります。グラフィックでは対応外の特色とさせていただいております。

 

すがすがしいほどの対応しない宣言です。

印刷会社が色として扱っていないという、わかりやすいお話ですね。

 

また、こういう解説もありますのでご一読いただければ。

 

 

印刷で使うかどうかも定かではないお話でしたので、詳細は詰めることができませんけれど、まあひらたく言って「糊」は色じゃないよ、という感じで理解していただければ、だいたい通るんじゃないかなと思います。

 

 

まとめ

水彩画を描くとして。

水100%で塗って「着彩しました」と言うでしょうか?

ってコトです。

 

技法でいうなら「たらしこみ」の、仕込みの部分です。

英語ではWater on water painting。

 

あらかじめ水を塗って、そこに絵の具を入れる技法ですが、その水は「透明であってほしい」と思いながら塗っているはずですよね?

 

南アルプス天然水の色がいいとか、

六甲のおいしい水の色がいいとか、

そんなコト言わないですよね?

 

アクリル絵具なら「メディウムで着彩しました」とは言わないんじゃない?

 

「メディウムを塗った」というのは技法だけど、「メディウムの色」とは言わないですよね。

 

そこで生まれる透明感とか、厚みを狙ってる場合、印刷でいえばPP加工とか、UVとか、そっちになります。

それは表面加工といいまして、色指定ではないんですね。

そしてオプション価格です。

 

そんなわけでDIC-583は色指定で使えない、というお話でした。