昨夜未明に誰かが要塞の門前で射殺された。



守衛に上番したら門前の中東系か南米か、浅黒いタトゥーのある太い腕の男性死体に警察の科学捜査班が群がっている、おかげでゴミ箱片せないからお鉢が私にとばっちり




今お昼食べて一番眠い時間に腹ごなしのゴミコンテナ回収




あんまり一等地とか殺人現場には関係ないのはやはり日向ぼっこや夜も溜まり場になりやすいからだろう、そういう人達目当てのドラッグ小売商じゃないかと誰かが言った




たまに領事館通達でマフィアの縄張り争いがあるから気を付けろとはメールで流れてはくるが何もウチの営門前でやるなよな




交通は制限されるわお巡りさんはトイレで出入りするわ、お茶まで汲まされて既に午前中でかなりの仕事をした




私達守備隊の居住区画だが海沿いで石造りの兵舎に寝る我々の誰一人として起きなかったし母なる海は9mm拳銃発砲音くらいの二、三発なら優しく包んでくれたという訳か




とにかく今朝はぐっすり眠れて良かった




今は地面に残る血痕以外はキレイさっぱり、だがいつも夕方に登って読書を楽しむノートルダムの丘もドイツ軍と自由フランス軍、連合軍との間で熾烈な戦闘が行われた場所、死んで砕け散った人など一人や二人じゃない




たった一人のヤク売人が射殺されたところでマルセイユの長い歴史に積もる僅かなチリでしかない




その血痕の上を無邪気にペタペタ駆けてゆく3歳児とその観光客一家をみて、普通にどうって事はないなと思う



血痕に向かって祈る、




「 仕方がないからお父さんお母さんに挨拶してから、また何処かで産まれておいでね 」




そう言えば私は日本では見た幽霊をフランスに来てからとんと見たことがない事に気がついた



ジメジメ日本と違ってカラッと成仏しちゃうのかもしれない



マルセイユは今日も空っと爽やかだ