客単価が高い
とんかつ店が人気の、なぜ?
茨城をはじめ千葉、埼玉で「とんQ」というとんかつ店が店舗展開しています。主にロードサイド型で、店舗は60~80坪程度とこのタイプで標準的な規模です。繁盛店揃いで、客単価は2,000円程度となりますが、そのクオリティの高さはそれを納得させて、また利用動機がこのような店を求めます。
それは、仲間同士の食事でも「ちょっとしたハレの気分」、久しぶりに外食する「家族の晩さん」、おじいちゃんおばあちゃんがやってきた「3世代の外食」というシチュエーションです。
とんQを展開するのはとんきゅう株式会社(本社/茨城・つくば市、代表/矢田部武久)で、4業態15店舗を擁していて、とんQは創業の業態で1号店が1983年にオープンしています。経営理念は「三位一体の歓喜・感動~夢実現・感動共有カンパニー」と掲げています。
とんQの店の中にいて感じることは、まず「居心地の良さ」です。テーブルについてからストレスを感じません。それは、従業員の気付きがよくて、お客さまから何かしてほしいと要望を出す前にお客さまの近くにいるということ。つまり、お客さまが手を挙げて「すみませ~ん」と声を上げることがありません。とんかつはご飯、みそ汁、お新香の定食となっていますが、このみそ汁、お新香は出来合いのものではありません。オリジナルを感じます。食べてみて体の中にすっと入るので、健康的な食事をしていることを実感します。
同社社長の矢田部武久氏は1948生まれで、とんきゅうを徒手空拳で始めました。実家は餡のメーカーを営んでいたのですが、起業を志したのです。
1号店は地元で評判の繁盛店となり、2号店、3号店と拡大します。しかしながら、3号店を出店してしばらくして、店の業績が低迷していきました。しかも、3店とも同時にです。
その理由に呻吟していた矢田部氏はコンサルタント会社の門をたたきます。ここでの指導と学びによって自分の経営観を大きく変革することになります。コンサルタント会社では独自に生産性の高い近代的なとんかつ店の仕組みを開発していて、全国に指導事例を展開しつつありました。矢田部氏は創業の店をその仕組みによって1997年にリニューアルしました。そして、88席の店は月商2,700万円という記録的な売上を達成したのです。
そこで、全国の飲食業者が同店を視察するようになりました。こうして、ロードサイド型とんかつ店のモデルとされるようになりました。
同社が変革を遂げることができたのは、創業の店がリニューアルする以前から徹底して行っている経営理念の浸透にあるようです。
前段に掲げた経営理念の原点は、変革を遂げるきっかけをつくったコンサルタント氏の「Delight」という主張でした。矢田部氏はこう語ります。
「Employees Delight、Customers Delight、Company Delight――つまり、働いている人が輝いているのか、お客様は感動しているか、会社が輝いているのか、ということです」
これが、同社のあらゆるものを形づくっていると考えます。
社長がコミュニケーションの
中心となる
矢田部氏は、社員をはじめ全ての従業員とのコミュニケーションを大切にしています。回数こそ頻繁ではありませんが、社員を対象としたものに、「新入社員ミーティング」「2年目ミーティング」「店長ミーティング」「幹部(SV、営業部長)ミーティング」があります。パートタイマーの場合「社長塾」を行っています。これは社長が月に1回店舗に伺い、集まったパートタイマー5~6人と懇談するというものです。会話の内容は仕事の話ではありません。
「とんきゅうを始めたきっかけは?」「社長の趣味の山登りはどんなところが楽しいか?」など、興味の赴くままです。社長塾は3カ月くらいで一巡していて、そのとき「社長に会える日を待ってました」などと言われるそうです。
パートタイマーとのコミュニケーションのためになぜ社長が店舗に赴くのか。それは、以前SVや幹部社員が行っていたそうですが、そうすると話の流れがどうしても仕事につながってしまいました。そのような機会にならないようにするために、社長が直接対話するようにしているそうです。
矢田部氏は趣味が豊富な人です。まず山歩きをはじめとした自然を親しむこと。日本百名山のほとんどに登頂し、「だれもが感動する日本の素晴らしい景色のポイント」を熟知しているそうです。若いころは世界各国を何カ月にもわたり一人旅をしました。こうして矢田部氏の世界観が形成されました。とんきゅうの経営理念のバックボーンはここにありそうです。
同社の場合、矢田部氏の世界観に触れる機会として社員旅行があります。年に2回(10月、2月)行っていて社員間の親睦を温めています。10月は山歩き、2月はスキーです。このような自然との触れ合いの機会を持つことで、矢田部氏は社員にこのようなことを伝えたいと言います。
「仕事とはお金を稼ぐため、家族を養うために行っていることだが、単にそれだけではない」
この社員旅行で矢田部氏は、社員に「趣味を持つことの重要性」を説きます。趣味を持つと休暇が重要になる。そして休暇を連休でほしいと思うようになる。では、連休を取得するためにどうすればよいか。それが、仕事を効率的に行い、生産性の高い現場をつくり上げることにつながる――これが、矢田部氏の職場観です。
見出し
趣味が大切になればなるほど
職場の生産性が高くなる
こうして、とんきゅうでは社員向けに「4日間」の連休制度が設けられました。現状は正月明け、5月の連休明け、8月のお盆明けの3回。社員が交代して休暇を取得できるようにしています。
また、商業施設内以外の店舗では大晦日と元旦を休業日としています。
社員の休暇は現状月6日ですが、今年は月7日を定着させ、来年には月8日を目標としているそうです。この実現を含めて、労務改善のために店舗の定休日を2017年3月から設けています。
定休日を設けることによって売上が大幅に減少することが懸念されましたが、現状は小幅で推移しているとのこと。その要因として、「リピーターのお客様は定休日が分かるとそれを外して店を訪ねてくれる」といいます。定休日のうちの1日は社員・パートタイマーともに朝10時に集まって2時間ほど店長主催の親睦の時間に充てています。ここでは会社から1人当たり1500円を支給して食事をしていただくなど有効に使ってもらいます。
労務改善の一環で、本社の中にセントラルキッチン(CK/食品工場)を設けました。現在肉のカットは全てここで行うようにしています。以前は店舗でカットしていましたが、これが店内の作業量を増やしていて、CKが稼働するようになってから、店舗ではランチタイムが終了してから休憩時間が取れるようになり、また閉店してからもすぐに帰宅できるようになっています。
このように、とんきゅうの店のクオリティの高さは、社員をはじめ従業員の「人生を豊かに過ごすこと」を優先して考えられ、社内のコミュニケーションを充実させるという、人間性を大切にした職場環境づくりから生まれていると感じました。
趣味を持ちましょう。そのために休暇を大切にしましょう。しかも長期の休暇をつくるために仕事を効率的に行うことを考えましょう――このような発想は、働く人も経営者も是非大切にしたいものです。
この記事を書いた人
『夢列伝』編集長 千葉哲幸
外食記者歴35年。2017年4月エーアイ出版『夢列伝』編集長に就任し、夢を語り、それを実現するために行動し、日本を元気にする人に出会うべく東奔西走。
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