Jside
「いやー、本当にびっくりしちゃったよー!
顔を洗いに脱衣所に行ったら、
翔ちゃんが潤ちゃんにおそわれ…いや、身体検査だっけ?されてたんだもんね!クフフ!」
相葉くんは、カレーを頬張りながら無邪気に笑っているが、僕は毛頭笑うことなんて出来ずにリビングの隅っこに体育座りをしている。
漫画だったら、僕の周りにはキノコが大量発生していたことだろう。
つまり、僕は今、じめじめうじうじしている真っ最中である。
「相葉さん、食べてから話しなさいよ。
潤くん、カレー食べよう?大野さんが作った特製さとちゃんカレーだって。」
「おう!俺の作ったカレーはうんまいぞー。」
「智のカレー…。食べる…。」
僕はおずおずとテーブルにつく。
左隣に座る櫻井くんをチラッと見ると、
リスみたいに両頬にカレーを詰め込みながら食べていて、
僕の視線に気がつくと、ニコッと微笑みかけてくれた。
あああああああ。
やめて!ときめいちゃうから、ニコッとしないでー!
「潤くん、気持ちは察していますが、というか、さっきから独り言で漏れていますので。まずはカレーを食べちゃってください。」
「うっ、うっ、うっ…。」
「潤ちゃん、どうしたのー?
なんで唸っているの。」
僕の向かい側に座る相葉くんが無邪気な笑顔で、なんで?なんで?連呼しており、
そんな相葉くんの隣に座るニノが僕の分のカレーをよそってきてくれる。
カレーから、スパイシーで少し甘いような独特な香りが漂ってくる。
僕は誘われるようにそのカレーを頬張ると、ピリリとした刺激が舌から脳髄に走っていく。
「松本くん、どう?特製さとちゃんカレー。
めっちゃうまいよな?」
彼はそう言って満面の笑みを浮かべる。
「まるで翔ちゃんがカレーを作ったみたいじゃん!作ったの、大ちゃんなのにさ。
大ちゃんも黙ってないで、何かいいなよ!
手柄取られちゃうよ!」
「うんにゃ、ごめん、食べるのに集中して、
全然聞いてなかったわ。」
そう相葉くんがすかさずツッコむも、
智はまったりとした雰囲気を崩さず、
スプーンに乗せたカレーを口に入れて、
ハフハフとさせた。
僕はそんなやりとりを見て笑いながら、
先程の脱衣所での失態を思い返していた。
あの時の僕の頭の中は、
櫻井くんが怪我しているのではないか、
ちゃんとお礼と謝罪をしなければならないという気持ちで、とにかくいっぱいで、
はやる気持ちをなんとか抑えながら、
脱衣所に向かった。
脱衣所に入ると、
ちょうど櫻井くんがシャツを脱ぐところだったので、
急いで怪我の有無を確認するためにシャツを脱がせて、ありとあらゆる場所を遠慮なく触っていた。
僕が彼のジーンズを脱がせようとベルトの留め具に手をかけたところで、
櫻井くんの両手で制止され、
さらに顔を洗いにきた相葉くんの
「わー、潤ちゃんったら、意外と大胆ー!!」
というこれまた無遠慮な一言で我に返り、
自分の奇行にようやく気がついた。
「さ、さ、櫻井くん、ごめん!
僕、怪我がないか確かめることに夢中になってて…。」
「……大丈夫だよ。松本くん、本当に無我夢中って感じだったね。そんなに心配してくれたの?」
そういって、彼は洗面所に手をついて僕の顔を覗き込んだのだが、
彼の綺麗な二重や整った唇などで形成される端正な顔と、
衣類の下に隠れていた筋肉質な体躯とのギャップに今更になって気がついて、
きっと僕が女の子だったら完全に”堕ちている”だろう、と考える冷静な自分がいることに驚くのだ。
「……ねぇねぇ、俺さー、顔を洗いに来たんだけど…お邪魔だったかな?」
不意に先程のテンションとは違う相葉くんの声が聞こえて僕は我に返った。
そして、僕は静かに、でも櫻井くんの目を見ないようにしながら、彼の温かい体温になるべく触れないようにそっと肩を押した。
「相葉くん、ごめんね。洗面台使って?櫻井くんも怪我なくてよかった。さっきは庇ってくれてありがと。」
その言葉をなんとか紡いで、
僕はその場を後にしたのだった。
だから、
今も僕の隣でカレーを頬張る彼を左側に感じながら、
”あぁ、僕が女の子だったら、堕ちていけるのに…”
そう思っている自分に
気が付かないふりをしていた。
智が作った特製さとちゃんカレーを頬張ると、相変わらず舌から脳髄にピリリと走る刺激に食欲が増していく。
それは、まるで次から次へと欲望を掻き立てる甘い毒のような、
知ってはいけなかった知りたくはなかった”あの”中毒性に似ていて。
ダメなんだとわかりながらも、
また欲しくなって。
そっと、僕は左隣の彼の口元を見ていた。