Jside



「今日はここまで!もーダメ!!

もう何も頭に入らないっ!!」



相葉くんがそう叫ぶと、

バタリッと音をたてて数学の参考書とノートを一気に閉じて、床に仰向けに寝転んだ。



「一時はどうなるかと思ったけど、

結構はかどったな。」


櫻井くんもそう言って、

読んでいた教科書を閉じると、それを持って立ち上がり、机の上の本の山の上に置いた。



「いちごパンツで本能寺、以後刃はないよ刀狩りぃ、天下統一だ苺くれぃ。」

「大野さん、さっきから語呂合わせばっかりじゃん。読み上げるなら教科書にしてくださいよ。」

しかめっ面をしながら歴史の年表を読み上げている大野さんの背中に体を預けてニノはゲームをしている。


「っていうか、智くん、そこ今回テスト範囲じゃないと思うんだけど。あと、ニノは聞いて覚える派なんだなしかもゲームしながら。」

「ニノちゃんだけ狡いよ!俺にもその脳みそちょうだいよ〜。」

「普通に嫌ですよ。ってぐへぇっ。」

智に寄りかかっているニノを見て、櫻井くんは苦笑いをし、相葉ちゃんは勢いよくニノに抱きついている。

智は相変わらずされるがまま、年表と睨めっこである。



僕はそんな4人のやり取りを微笑ましい気持ちで眺めていたら、

櫻井くんが僕の方を振り返って笑いかけてきた。


「松本くんはどう?捗った?」

「うん。お陰様で。

櫻井くん、意外とスパルタなんだもの。」



色々あったお陰に、

余計なことを考えまいと勉強に集中した結果、かなり捗ったのは事実だ。

それに、翔くんの教え方も上手い。


和も教えるのは上手いが、

僕に対して甘いところがあるから、

いつも答えまで教えてくれるけれど。


櫻井くんは、

まずはヒントをくれて、

僕に解けるように徐々に道案内してくれる感じだ。


一回だけ、僕が我慢できずに答えまで教えて欲しいと言ったら、

彼はクスッと笑うと

「甘えんなっ。」

と言いながら、彼は僕に優しくデコピンをしてきた。

それを思い出して、僕はそっとおでこをさすること数回。

その度に必ず和と目が合ってニヤッとされるから、恥ずかしい。



「さてと、もうこんな時間だし、明日に備えて寝ようぜ。」

櫻井くんの言葉に時計を確認すると、

すでに0時を回っていた。



勉強で疲れていた僕たちは、あっという間に櫻井くんの部屋に布団を敷いて眠りについた。



けれど、僕は疲れた体とは裏腹に、

アドレナリンが次から次へと湧き出てしまっているかのように目が覚めていて、

なかなか寝付けなくて。



しばらく寝返りをうったり、羊を数えたり、ストレッチをしたりと試したが、

結局時計を確認すると午前2時を過ぎていた。



「喉渇いたな。」



夕食のさとちゃんカレーの影響だろうか。

僕は喉の渇きを感じて、キッチンに向かった。



コップに水を注いで、シンクにもたれるような体勢で立つと、少しずつ水分を口に含み、流し込む。



台所に立ってしまえば、

嫌でも夕方の出来事を思い返しそうになって、首をふってそれを頭から追い出す。




しかし、僕たちの脳は不思議と、考えまいとすればするほど、それに縛られ、その映像が脳内再生されてしまう。

しばらく物思いに耽っていた僕の鼓膜に、

リビングの扉が開く音と足音がきこえてきた。



「あれ?松本くん?

眠れないの?」



小さな光とともに、

眠れない原因の櫻井くんその人が台所に入ってきた。

しかし、なぜだろうか。

彼がくることを予感していたかのように、

僕は特に驚くことなく口を開いた。



「勉強頑張ったからかな?脳が活性化しちゃったみたい。なかなか眠れなくて、喉も渇いたし、ごめんね、勝手に水もらっちゃった。」

「いいよ、好きに飲んでよ。俺も喉渇いちゃって。」



彼はそう言うと、冷蔵庫を開けて、中に入っていた麦茶をコップに注いで一気に飲み干した。

そして、続けて2杯目を注ぐと、

僕と同じようにシンクにもたれるような格好で、今度はゆっくりとそれを飲み始めた。


僕はそっと横目で彼の横顔を確認すると、

彼もまた台所の床を眺めて物思いに耽っているようで、黙ったまま時が流れた。


彼と僕の間に、痺れるような沈黙が流れる。


時折聞こえてくる、彼が麦茶を飲む水音と、布が擦れる音に過剰反応してしまうし、

その音を聞くたびに彼という存在がどんどん強くなって、心臓もどんどん大きく脈を打っていく。


そろそろ僕のこの緊張している心臓の音が、隣で佇む彼に聞こえてしまいそうで、それを僕は誤魔化すように、数回もぞもぞと体を動かすけれど、

それでも、耐えられなくて。



「あのっ。」

「あのさ。」



意を決して、彼に話しかけると、

彼もまた同時に話しかけてきて。



「「あ、先にどうぞ。」」



お約束のようにハモってしまって。

思わず僕は彼を伺うと、

彼は、シンクから体を離して、

僕の方に体を向けて、



「ねぇ、少し話さない?」


そう優しく話しかけてくるのだった。