第9回:クラッシュ
「小山内じゃないか!どうしたんだ、突然?」
小山内を職員室に迎え入れたのは、小山内の出身校である所沢高校の教師、笠島だった。小山内の卒業後、2度の転勤を経て、現在はここ北高校に勤めているという。
中学時代の情報ではヨシムネの足取りがつかめず、小山内はヨシムネの母校である北高校まで情報収集に来たのだ。偶然、かつての教科担当に会えたのは幸運だった。
「笠島先生!どうも、ご無沙汰しています」
「なんだ、お前、高校のときよりも痩せたんじゃないか?ちゃんと社会のために働いて税金納めて、メシ食ってるのか?」
社会科の担任らしいセリフだ。
「働いてますよ、もちろん。今日は、まあちょっと用事があって休んでますけど…」
「それで、ここの卒業生でもないのに、どうしたんだ?仕事の話なら、教頭呼ぶか?」
「いえ、笠島先生がいるなら丁度いいです!教えてほしいことがあるんです」
「懐かしいなあ…お前の“教えてほしいことがあるんです”。定期テストの前日によく職員室に来て、テスト問題聞き出そうとしてたよなあ」
「笠島先生はガード固かったっすよね…。英語のノリコ先生とか音楽のミッチ先生なんかイチコロだったのに」
「ガード固いんじゃねえよ、普通なんだ教師として」
「そっすか」
「いいから早く要件を言え」
「あ、はい。あの…ヨシムネってやつを探してて…」
「ヨシムネ?それ名字か?名前か?」
「オレと同い年で、ここの卒業生なんですよ。本名は宗田義則。卒業後にどこに進学したのか、もしくは高校2年のときに引っ越ししてるはずなんですけど、引っ越し先の住所が分かればと思って」
「なんだ、お前?探偵でもやってるのか?それとも興信所か?」
「その、なんて言うか、そいつの母ちゃんが、そいつに会いたがってて、でも今どこにいるか分からないんですよ」
「母ちゃん?母親にも分からんものを、高校が知ってるわけないだろうが」
「ヒントが分かればいいんです。そいつは高校2年のときに母ちゃんと別れ別れになってて、それ以来行方不明なんです」
「ふむ。まあ、手伝ってやりたいのはヤマヤマだが…言えることと言えないことがあるから、それだけはオレを恨むなよ。調べてやるけど、いくら卒業から何年も経ってても、生徒のプライバシーを漏らすわけにはいかん。外部に知れてもいいことだけしか開示できんからな」
「もちろんです!」
笠島は、小山内を社会科教務室に案内すると、面談用の席に座らせて「ちょっと待ってろ」と言い置き、再び職員室に戻っていった。
30分ほどが経った。
小山内は落ち着かないあまり、教務室内をうろうろと歩き回った。笠島のデスクの引き出しが半開きになり、少しだけ中が見える。
授業終了のチャイムが鳴り、廊下が賑やかになる。小山内は慌ててもとの椅子に座った。やがて、つぎのチャイムが鳴り、4時限目が始まりを告げると同時に、笠島が早足で戻ってきた。手には当時の資料を閉じてあると思われる分厚いファイルを抱えている。
「いやあ探した探した!」
「ありましたか?」
「あのよ、オレ次の授業があるから手短に言うぞ。宗田って生徒な、2年のときに転校してるんだ…あ、転校じゃねえな、退学っつうのかな。次の学校名が書いてないから、多分、転校じゃねえと思う。経済的な事情なのかな…きっと学校に通い続けられなくなったんだろうな」
「そうですか…。引っ越ししたような形跡はないですか?」
「ここから先はプライバシーなんだ」
「ヒントだけでいいです!ヨシムネの住所は、最後は所沢市並木8丁目、で合ってますか?」
ヨシエさんに教えてもらった住所である。
「ん?………いいか、今からオレが言うのは独り言だぞ」
「はい。何も聞いてません」
「…並木8丁目ではないが、限りなく近い」
「近い?」
「ここまでだ。これ以上は何も聞くな」
「そうですか…分かりました…あと一つだけでいいです。笠島先生、ぱるるは好きですか?」
笠島の顔が一瞬にして沸騰した。
「おま!おまえ!なんで知ってんだ!」
「いや、ぱるるがちらっと僕のことを見てたんで」
小山内は笠島のデスクの半開きの引き出しを見た。島崎遥香の写真集の角が飛び出している。
「…お前、こうやってほかの先生からテストの答え聞き出してたんか?」
「偶然です、開けっ放しにしておくからですよ。先生いいんですか、ああいう本を学校に持ってきて。女子生徒にひんしゅくだろうなぁ」
「生徒から没収したもんだ、仕方ないだろ」
「じゃ、教頭に報告した方が?」
「いいんだよ、そういうものを持ち込ませてしまった担任のオレにも責任がある、のかもしれない」
「じゃ、それを信じますから、先生もオレを信じてくださいよ」
「分かったよ。いいか、オレは何も言わん。ただ、落書きをしたものをお前がたまたま見かけることはあるかもしれん。誰が落書きしたものかも分からん、ただの紙切れをお前が拾っただけなんだからな、いいな?」
「恩にきります!」
笠島は自分のデスクからメモを1枚ちぎると、ファイルを見ながら、住所を殴り書きした、
「いいか、オレはもう次の授業に行くから、ここを出たら走って行く。もしかしたら、そのときにメモを落としてしまうかもしれんが、お前がたとえそれを拾ったとしても、何のことやら分からんただのメモ書きだ。学校を出たら、すぐに千切って細かくして捨てろよ。いいな」
「はい!」
小山内が社会科教務室から出たところで、笠島はドアに鍵をかけ、急ぎ足でその場を離れた。
「じゃあな!定期テスト、頑張れよ!」
そう言って、メモ書きを後ろ手に放った。
「ありがとうございます!」
小山内は廊下にしゃがんでメモを取り上げた、
「並木3丁目か…元の家のすぐ近くだな」
小山内は学校を出ると、スマートフォンを取り出し、地図アプリで、メモに書かれていた住所を打ち込んだ。すぐに、住所が示す地図が画面に現れる。
「ん?…えっと、どういうことだ?」
小山内は画面を見つめ、しばらく考え込んだ。地図は、引っ越し先としては意外な場所を示していた。
喫茶うらめし。
ちょうど客の途切れた頃合いを見計らって、店主は「うらめし席」に座った。向かいの席には既にヨシエさんが座っている。
「あら、トモミさんじゃない」
「ええ…どうしても気になるものですから」
「何が?いったい何の相談?」
「いま、小山内さんっていうお客さんが、ヨシエさんの息子さんの行方を捜しています」
「義則のことを?あら、そうだったの?」
ヨシエさんは記憶の継続ができないため、死後の出来事については「覚えている」「思い出す」ということがない。
店主は小山内の2度のうらめしについて簡単に説明した。
「それで、ヨシエさんに教えてほしいんです。もしかしたら、今日明日中にも小山内さんが息子さんを探し当てたとして、そうしたら、ヨシエさんはいなくなっちゃいますか?」
「え?それって、成仏ってこと?」
「ええ。ヨシエさんの生前の心残りは、息子さんにお別れを言えなかったことだって。だから、もし息子さんが現れて、お別れを言えたら、それっきり自縛から解放されるのかなって…」
「どうだろう」
「私は、ヨシエさんが願いを叶えることを応援しています。でも、でも…ヨシエさんとともに始めたこの店からヨシエさんがいなくなったら、そんなの…大根の入っていないラーメンと同じです」
「・・・」
「だから、ヨシエさん、もし」
「ちょっとちょっと!待って!あなた、大根の入ってないラーメンって言った?私の聞き間違い?」
「え…大根の入ってないラーメン、って言いましたけど…」
「大根の入ってないラーメンって、普通だから。例えがローカルすぎる」
「え!? ヨシエさん、パスタにも大根入れるつもりですか?」
「そっちじゃないの、訂正したいのはラーメンかどうかじゃなくて、大根を入れないって話」
「大根入れないんですか?」
「どういう形状で入れるわけ?短冊?輪切り?」
「何言ってるんです、おっかしいヨシエさん!大根おろしに決まってるじゃないですか!」
「ないない。無理だわ」
「所沢だけかあ、残念」
「おい、待て。私も所沢出身だけど、そんなもん見たことないぞ。あなたの家だけでしょうが」
「うそー!ビックリ!」
「それはさておき、一応、…そうなったときのために、あらかじめ言っておくわね」
「…そうなったとき、ですか…」
「ここに居させてくれて、ありがとね。トモミさんに私が見えて、本当に良かった。こういうのを、命の恩人って言うんだろうね」
「ヨシエさん、このお店を盛り上げてくださって、本当に感謝しています…でも、正直なところ、ヨシエさんがいなくなったらこの先どうなるか、自信がありません」
「自信は一生生まれない」
「それ、誰の名言ですか?」
「誰だっけな…岸部シローかな。自信がないなんて考えてるヒマがないくらい動くんだよ。喫茶うらめしは、トモミさんの料理が食べられる世界で一つの店なんだ。そんな暗い顔してちゃ、私が安心して成仏できないだろ」
「ヨシエさん…」
ありがとう、と言ったときには既にヨシエさんの姿はなかった。
店主はその日の朝刊を書棚から抜き出して、カウンターに一面を広げた。
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「ヨシエさん、みんな頑張って前進してる。ヨシエさんがいつも言ってるとおり、当たり前のことができる街に、なってきてる。私も、進まなきゃなのかな…」
(つづく)
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