第10回会議:理不尽はぶっとばせ
【株式会社アッキーナ 総務部ダイバーシティ課特命係のメンバー】
・呉洲仁(くれす・じん)グレース。42歳。総務部長。
・越坂部聡美(おさかべ・さとみ)サトミーナ。39歳。編集部。
・小林保明(こばやし・やすあき)ヤスアキーナ。31歳。営業部。
・南山恵美(なんざん・えみ)エミーナ。24歳。経理部。
株式会社アッキーナ、会議室A。
しかし、今日はダイバーシティ会議ではない。月に一回の取締役会議の会場だ。
ダイバーシティ課特命係の経過報告で、取締役会に諮りたい案件がある――山口事業部長に事前にそう伝えたところ、当然面白くない顔をされた。ダイバーシティは事業部長預かりとなっている。取締役会に諮るということは、事業部長マターを超えるということだ。山口にとっては穏やかではない。
しかし、グレースは一刻を急いだ。営業部でプレッシャーをかけられている美原泉が、復帰をあきらめてしまっては元も子もない。彼女の気持ちが残っているうちに道筋を作りたい。
事前にレジメを提出しておくように言われたため、サトミーナとエミーナが残業代と社食についてのアンケートレポートを作成してくれた。正直、これだけでは事業部長を超えるほどの決済が必要とは言い難いが、とりあえず、冨岡常務肝いりのダイバーシティ課として途中経過をする、という体裁で、乗り込めるだろうと考えた。
山口も、レジメを一見し、特に問題なしと判断したか、定型的な報告として5分程度であれば取締役会への出席も問題なしと認めた。
午前11時15分。
既に会議開始から1時間以上が経過している。
取締役ではないグレースは、廊下で声がかかるのを待っている。パイプ椅子を置いてはいるが、とてもじゃないが落ち着いて座っていられる心境ではない。
これからグレースがしようとしていることは、レジメを提出した案件ではない、「すでに却下となった」女性社員の産休と復帰に関するダイバーシティ課としての要望を伝えることだ。ことによると、取締役の怒りを買い、何らかの処分が下る可能性がある。少なくとも一会社人間として、やらなくていいとされた職務を邁進しているのだ。
グレースはこの日の朝のことを思い出していた。
出勤前のわずかな時間、専業主婦の妻が、食後の洗い物をしながらグレースに話しかけた。
「何か悩みがあるんじゃないですか?」
「どうして?」
「最近、悩んでいるように見えたものだから」
「そんなことはないよ」
グレースは仕事の悩みを妻に打ち明けたことはなかった。どんな苦境に立たされていても、給料は間違いなく持ってくる、そういう姿を示してきたつもりだ。
「最近トイレに行く回数が多くありませんか?」
「え…」
思い当たる節はある。会社で、気が付くとトイレに立っているのだ。
「あなた、緊張するとトイレが近くなるから。最近、帰宅したときのハンカチがいつも湿っているから、トイレの回数が多かったのかなと思ったんですよ」
「だからって、どうして悩んでいると?」
「怒らないで聞いてくれますか?」
「ああ。怒らないよ。何なんだ?」
「あなたのハンカチが湿っている日が続くと、決まって抜け毛が多い時期と重なるんですよ。何年かに一回こういう時期があるので、今もその繁忙期なのかしらと思ったんです」
グレースは肩の力が抜けた。妻は、もしかすると自分よりも自分のことをよく知っているのかもしれない。20年の社会人生活の中で、初めて妻に仕事の相談をしようと思った、
「もしも、私が会社を辞めることになったら、どうする?」
「理由にもよります」
「そうか、ええと、例えば…成績不振とか?」
「それなら仕方ありませんよ。あなたが一生懸命やってくれていることはよぉく分かっていますから。会社に見る目が無かったってことですもの」
「じゃあ、例えば…上司に逆らってクビってのは?」
「逆らう理由にもよります」
「そうだな…上司の考えが受け入れられないというか…」
「その内容にもよります」
「上司の考えが古臭いというか、今の時代に合っていないというか…」
「その考えにもよります」
「ああ、分かったよ!つまりだな、出産で会社を休む女性社員がいて、その社員の復帰を確約したいんだよ、私は。でも、上層部がそれを反対していて、出産イコール退職というのが、うちの会社なんだ。それを変えたいと思ったら、もしかしたら私の減給か、降格か、ことによると会社にいられなくなるんじゃないかというくらいのインパクトがあることをしなくちゃいかんのだ。見て見ぬふりをすれば、きっと退職まで会社にいられるさ。だが、声をあげようとすれば、立場がなくなるかもしれない。だから悩んでいるのさ」
「ふふ、面白い」
「面白い?何が面白いんだ!私がクビになったら、生活できなくなるんだぞ、この家族全員が!」
「落ち着いてよく考えてみてください。あなたが今の会社に勤め続けるとして、退職するまで残り20年です」
「そうだ。正確には23年だ」
「ええ、そうです。では、出産イコール退職、という会社が20年後に生き残っていると思いますか?」
「…それは…」
「残っていませんよ。雇われる側にだって選ぶ権利はありますから。そんな理不尽な会社は淘汰されるか、または変わるかしかないんです」
「それはそうだが…」
「もしあなたが…、総務部長ともあろうあなたが、出産イコール退職という会社の人事の責任者なのだとしたら、あなたが最初に変わらないといけないんじゃないですか?」
――このやり取りが、グレースの腹を決めた。
今日の取締役会で決着をつける。復帰案件を握りつぶしているのが誰かをハッキリさせ、今後の女性社員の復帰を確約させる。できなければ、クビにでもなんでもすればいい。いくら問題が大きくなったところで、総務部長が解雇ということになれば、部下三人の籍は守れるだろう。自分は「責任」の取り方を一番よく知っているのだ。それが総務部長なのだから。
つい先ほど、サトミーナからメールが届いていた。
取締役を黙らせてやってください。ヒール貸しましょうか? サトミ
サトミーナらしいメールだ。主任という立場上残業が多かったにもかかわらず、今日のためのダミーのレジメ作りを頑張ってくれた。本当に頼れる部下だと思う。
続いてヤスアキーナからもメールがあった。
オレ、クビになっても大丈夫なんで。部長暴れてください 小林
彼も今期の営業ノルマが絶望的な状態で、よく頑張ってくれた、今美原泉をつなぎとめているのは、ヤスアキーナの心なのだろうと思う。今の苦境を乗り越えて、いい営業マンになるだろう。
エミーナからは特に連絡がないが、彼女も秋田さんが有給中の経理部で、仕事を覚えるために必死になっているに違いない。
この日の午後5時には、部下に報告するためのダイバーシティ会議を開催することにしている。ことによると、その場で最悪の報告をしなければいけないかもしれない。
ダイバーシティ課の解散があっても構わない。自分の処分も望むところだ。だが、アッキーナのためにも、女性社員の復職は前進しなければならない。
今日が、株式会社アッキーナのターニングポイントになる。
「呉洲君、入りなさい」
呼ばれたのは11時40分を過ぎたところだ。
グレースは大きく息を吸い込んで、「失礼します」と言うと、会議室のドアノブに手をかけた。
瞬間、グレースの携帯が鳴り響いた。
しまった、マナーモードにしていなかった。グレースが慌てて取り出した携帯電話の画面には「エミーナ」の文字。
何か問題が…?
グレースはわずかにドアを開け、「すみません、すぐに終わります」と声をかけると、ドアを閉め、電話に出た、
「どうした、これから取締役会議なんだ。急ぎの用事か?」
電話は1分程度で終わった。
グレースはドアをノックし「失礼します」と声をかけ、今度こそ入室した。
心の中で再び念じる、
今日が、株式会社アッキーナのターニングポイントになる!
(つづく)
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