「お前さ、手を抜いただろう?」
「・・いや」
「でも、あそこまではないだろう」
「・・いや、最初は確かに、少し手を抜いた」
「まあ、受けててそれは感じたがな」
「・・後半は本気だった」
「それで、あの結果か?」
「ああ、悔しいが、その通りだ。」
「・・自信、無くしたか?」
「いや、それはないよ。あいつ・・あいつの力は、本物だ」
「そうか・・」
「本物というよりか、不思議だ」
「不思議?」
「ああ、不思議だ。あいつは他の選手と違うなにかをもっている」
「ああ?」
「だから、打たれた事はあまり気にならない」
「そうか」
ひかりと省吾の対決は実に意外な結果に終った。
省吾が投じた10球の内、6球は見事にヒット性の当たりで打ち返された。
残りの4球も、きわどいコースを全てファウルされた。
そして、その後の守備力のテストも合格というしかないものだった。
ポジションは外野手。
大抵の当たりは、その俊足で見事に追いつき、難なくキャッチする。
肩の弱さは補えないものの、中継の野手には実に正確なコントロールで返球していた。
十分過ぎる戦力と言えた。
「さすが、アメリカの高校でのレギュラーだな」
大輔は、ひかりの守備練習をまぶしそうに見て、そう呟いた。
それからひかりは野球部の練習に合流した。
一緒に練習をするうちに、やはり女子の体力というものを感じざるを得なかった。
他の部員と別メニューの練習が組まれ、ひかりは意欲的に取組んだ。
それともうひとつ。
ひかりのあまりにも女性らしい体型を隠す様に、すこし緩めのユニフォームが作られた。
スポーツブラとダボダボと言えるユニフォームのおかげで、なんとか細身の男子に見える様になった。
そして。。とうとう、夏の甲子園大会の地方予選が始まった。
初戦。
相手はほぼ初戦負けの常連といえる高校である。
ひかりの実戦を見るには好都合の相手とも言えた。
大輔も省吾も、初戦は確実に突破出来ると考えていた。
試合開始。
ひかりは外野手の1番打者として試合に出た。
第1打籍はファイルで粘り、四球。そして、なんと二盗、三盗を決め、三番打者の省吾のヒットで先制のホームを踏んだ。
第2打籍は、狙いすました様な当たりを三遊間に放ち、またしても二盗、三盗。次の打者の内野ゴロの間に生還し、ホームを踏んだ。
第3打籍は、ツーアウト1、3塁の好機で打席に立ち、三塁線を破る二塁打で2者を生還させる。
第4打籍は、これも満塁の好機で登場し、コールドを決める安打をセンター前に放った。
結果、3打数3安打1四球3打点4盗という活躍で、試合は10対0で5回コールド勝ち。
大輔も1本塁打を放ち、省吾は1安打のみの見事な完封勝利を決めた。
「やったな!」
「おお、やった。ひかりもよくやったな!」
大輔と省吾が喜びを表す。ひかりも嬉しそうにナインの輪に入ってくる。
「だけどさ、お前。足速いのは分かったけど、盗塁すごいな」
ひかりははにかんだ様に笑う。
「危ないのもあったな。タイミングはアウトだったし」
「ああ、捕手の送球がもうすこし正確だったらな」
会話するふたりを、ひかりは微笑んで見ていた。
「まあ、初戦だし。相手も相手だったしな」
「そうだ。次は二回戦。気を引き締めていこうぜ」
WONDER-六 「結果オーライ」に続く…