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あい♥のブログ

ポケモンとガルフレが大好きな大学生が、気ままに更新する、愛がいっぱいのブログです♥

WONDER 第一話は下のリンクからどうぞ!

「WONDER」--序。「始まりの快音

それでは、本編です!

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水平線上に真紅の太陽が溶け始め、西の空の雲を黄金色に染めている。
天空から東の空は深い蒼に星屑のヴェールを纏い始める。
ひかりはランニングの足を止め、夕凪の浜辺に佇んで海を見ていた。
周りには誰も居ない。遠くの海岸通りに、数人の歩行者が見えるだけだ。

周りに人が居ない事を確認してから、ひかりは天空を見上げた。
片手を胸に当て、両目を瞑る。
「・・フローラ」
ひかりは誰もいない虚空に語りかける。
途端に、凪の浜辺に僅かな風が、ひかりを中心に渦を巻く様にそよいだ。
胸に手をあてた光の手から、僅かに光の粒が零れ、渦の中心に集まった。
「フローラ、今日もありがとう」
小さな声で呟くひかり。すると、ひかりの頭の中で声が響く。
--どうしたんだい?ひかり。改まって
「君が居てくれたから、今日の試合も勝てたのかなって」
--僕はなにもしていないよ
「ううん、そんなことない」
--本当さ。今日の試合に勝てたのは、全部ひかりの実力だよ
「そうかな・・」
ひかりは少し黙って考え込んでから、
「ねえ、フローラ。あれを『見せて』くれているのは、フローラなの?」
--僕じゃない。それもひかりの『力』の一部だよ
「私の『力』・・? よくわかんないな・・。だって・・」
--だって?
「まるで誰かが私を導いてくれているみたいなんだもん」
--そんな風に思ってたんだね
「そうだよ。だから、フローラが私の為になにかしてくれたのかなって」
--ひかり。僕の役目は、君を君自身の『力』から守ることだよ
「・・うん。それはわかってる」
--だから、君に何かの『力』を与えたりは出来ないんだ
「それもわかってる・・つもりだけど・・」
--なにか、気になるのかい?
「うん・・。フローラのおかげじゃないとしたら・・、この『見える』の、なんなんだろうって・・」
--それは僕にもわからない。ひかりの『力』はとても特別だからね
「ねえ、フローラ。これ・・その、怖い『力』じゃない・・よね?」
--それは大丈夫だよ。そっちの方なら、僕がいるから
「私・・このままでいいのかな?」
--大丈夫だよ。心配いらない。ひかりはひかりのままでいいんだよ
「そっか・・。じゃ、このまま野球しててもいいんだよね?」
--ああ、頑張りなよ
「よかった・・」
--ねえ、ひかり。君はその『見える力』を気にしているみたいだけど?
「うん。ちょっとね・・なんか、ズルしているみたいな気もするの・・」
--気にしないでいいよ
「そう・・かな?」
--だって、ひかりは耳が良く聞こえないだろう?
「・・うん」
--耳が良く聞こえる人を、ズルしているって思うかい?
「え・・。それは、思わないよ」
--体が大きくて、運動神経の良い人を、ズルしているって思うかい?
「ううん、思わない。羨ましいなっては思うけど」
--それと同じさ。ひかり。君の『見える』方の力はね、神様がくれた個性と同じだよ
「個性と同じ?」
--神様が、耳の代わりに授けてくれた力なんだ。他の人と「おあいこ」なのさ
「神様がくれた個性か・・。フローラ・・素敵な言葉だね」
--そうかい
「うん。ありがとう」
--どういたしまして
「それからね、フローラ・・」
--・・・
「フローラ?」
--・・・
「フローラ、どうしたの、急に?」

突然沈黙したフローラに戸惑い、ひかりは目を開いた。
すると、ひとりの男の姿が目に飛び込んできた。
「なるほどね。そういうことか」
その男が呟く。
そして、ゆっくりとひかりの傍らに歩み寄ってきた。
「え・・?」
ひかりは一瞬自分の目を疑った。そして、確かめる様にゆっくりとその男を見詰めた。
「お、お兄ちゃん!?」
「やあ、ひかり。ただいま」
そこに佇んでいたのは、春賀 陽介(はるか ようすけ)。ひかりの六歳上の兄である。
陽介は今、アメリカの大学院に進学しており、日本には居ないはずだった。
その陽介が、何の連絡も前触れもなく、ひかりの傍らに立っているのである。
「ただいまって、どうしたの? 突然過ぎて、びっくりだよ」
「ああ、ちょっと用事があってね。さっき帰国したばかりさ」
「もう・・驚かさないで」
「ごめんな」
「でも、嬉しい。おかえり、お兄ちゃん」
そう言うと、ひかりは嬉しそうに陽介の腕に抱きついた。
ひかりにとっての陽介は、唯の兄というだけではない。
ひかりと同じ『能力者』でもあり、ひかりの一番の理解者である。
そして、ひかりにとっての理想の男性でもあった。
その兄がアメリカの大学に進学してから、ひかりはずっと寂しさを募らせていた。
年に数回、兄が帰国している間は、ひかりにとってとても幸福な時間でもあった。
「あのね・・おにいちゃん」
「なんだい?」
「お話ししたいこと・・いっぱいあるんだ」
「ああ、あとでゆっくり聞いてあげるよ」
「うん!」
「それより、ひかり」
「なあに?」
「さっきの『ガーディアン』との会話だけど」
「・・フローラとのお話しの事ね。聞いてたの?」」
「聞く、というものではないけどね」
「うん・・」
「ひかり、その『見える』力について、もう少し、お前の言葉で説明してくれないか?」
「いいけど・・」
「僕が帰国した理由のひとつは、それさ」

水平線に溶け落ちた紅い太陽の残光が、濃紺の空の一部を紫色に染めている。
水平近くの雲は黄金色に輝き、その照り返しの光が、波打ち際を歩くふたりの姿も黄金色に染めている。
自分が感じていた不安。ひかりは、それを陽介に語った。

「あのね。お兄ちゃん。何て言っていいかわかんないけど・・『見える』の」
「なにが『見える』んだい?」
「『見える』っていうより、『感じる』なのかもしれない」
「何を?」
「これから起こる事が・・見えちゃうんだ」
「すこし先の未来・・てことかい?」
「見えちゃう・・っていうより、こうしたら、そうなるっていうのを感じる」
「なるほど・・」
「例えばね・・野球やってて」
「うん」
「相手の投手が、どこに投げてくるのかが、なんとなくわかるの」
「うん」
「調子いいとね・・球筋まで見えちゃうんだ」
「ほお、どういう風に?」
「うまく言えないけど、ここに来るって分かるの。だから・・」
「うん」
「そこにバットを出す。どんな風にバットを出すといいか、みたいなのもわかるの。まるで誰かに導かれてるみたいに・・」
「なるほどね」
「だから、私ね・・フローラが、助けてくれているんだって思ってた」
「ガーディアンが、かい?」
「もう・・ガーディアンて言わないで。フローラって名前なんだから」
「フローラか。わかったよ」
「でも、フローラは違うって。それは私の『力』なんだって」
「ガーデ・・フローラがそう言ったんだね」
「うん。だから・・そしたら、ちょっと不安になったの」
「不安に?」
「これ、私の怖い『力』が漏れているのかなって・・」
「『干渉波』が漏れているって思ったのかい?」
「うん・・」
「でも、『干渉波』とは全然違う力だよね」
「そうだけど・・」
「それは大丈夫だよ。ひかり。安心していい」
「そうなの?」
「僕にはわかる。それは『干渉波』じゃない」
「・・うん」
「ただね・・」
「ただ・・?」
「ひかりの『力』は、変化しているみたいだね」
「変化・・?」
「ひかりが思っている怖い『力』じゃない。むしろ、とても興味深い変化だよ」
「大丈夫かな・・」
「大丈夫だ。それは心配いらないよ」
「うん・・」
「暫く、僕がひかりの傍にいるから」
「ほんと?」
「ああ。僕と、ひかりのフローラと、僕のガーディアンでひかりを見守る」
「うん」
「ひかりは、自分の思う通り、思いっきりやりなさい」
「うん」
「僕はね。ひかりの『力』そのものも、だけど、ひかりの野球にもとても興味があるんだ」
「・・そうなの?」
「この後、ひかりの力が、野球をどんな風に変えるのかっていうね」
「そんな・・大袈裟だよ」
「いや。それくらい、面白いよ。ひかりの野球はね」
「誉めてもらってる・・のかな?」
「ああ。誉めてる。ひかり、ただ見えるだけの人間じゃ、ひかりの様なプレーは出来ない」
「うん」
「ひかりは才能があるんだ。だから、見える事を生かせる。それも、見守ってみたい」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「その為にね、ひとつの問題を解決しないとね」
「問題?」
「そうさ。お前が野球を続ける為にクリアしないといけない問題」
「あ・・」
「どうするつもりだった?」
「ど・・どうするって・・」
「日本では女子は高校野球でプレー出来ないんだろう?」
「・・うん」
「まあ、ここまではよしとしても、ここから先は問題になるな」
「・・うん・・どうしよう・・」
「まあ、僕がなんとかするよ」
「・・出来るの?」
「多分ね」

陽介はそう言うと、明るく笑って指をパチンと鳴らした。
「この世界の可能性は無限にある。それをすこしひねらせてもらうだけだよ」

「WONDER」--11。「変化」に続く