あなたの心が読めなくて | シンシアリー * 心のままに

シンシアリー * 心のままに

何気ない日常です。

私は、ここにいます。

4ヶ月ぶりに見るTさんは、また、
少し痩せていた。

黒いスーツに身を包み、眼光炯々な
その姿は、本来のTさんの姿、
そのものだった。

パーティで初めて出会って、
もう一年になる。

あの夜の事は、今でも鮮明に覚えている。




あれから一年…
色々な事があった。


はじめまして!
お噂は聞いてますよ、桜香さん。
お会い出来て、光栄です。


Tさんは、深く頭を下げた。


Nさんが、
さぁさぁ、挨拶はそれくらいにして、
良かったら、Tさんも一緒に
どうだい! と聞いた。

先生、ありがとうございます!
僕は、ここで打ち合わせがあり
まして! 後ほど、改めてご挨拶に
伺います!
そう言うと、その店の一番VIPな席
歩いて行った。

最近、神戸の方が騒がしいからな、
Tさんも色々と忙しいのだろう。
彼は、ますます父親に似てきたよ。
堅気として生きるなんて、彼には到底
無理な話だ


若社長は、黙って頷いていた。


程よくお酒も入ったNさんは段々と
上機嫌になり、 
桜香ちゃんは可愛いねー、
美人だね、愛人タイプだね、
壇蜜に似てると言われるだろう、
どんなタイプの男性が好きなの?
僕は、タイプじゃない?
と、強引にボディタッチを始めた。

若社長が見かねて、
N先生! お店を変えましょうか?
この先に、人気のキャバクラがあるん
ですよ!行きましょう!
と促した。

私は、ウブな生娘ではないから、
酔っ払いの交わし方など、ちゃんと
心得ている。

Nさん、明日酔いが冷めて、
今夜の事を思い出したら、
きっと後悔なさいますよ。
大事な商売道具であるこの手で、
初対面の女性にセクハラなんて
しちゃダメですよ。
私は、ただの会社員ですから。
この続きは、そういうお店で
なさってね。


Nさんは、
そうだね、ごめんごめん!
と謝りながら、
ますます桜香ちゃんが気に入ったよ!
と言った。


若社長がトイレに立った隙に、
Nさんが、耳元で囁いた。


いくら払ったら、させてもらえるの?
100万円?  


その時、Tさんが、こっちへ歩いて
来るのが見えた。


先生、僕の方は終わりましたので、
こちらへ合流しても良いですか?


あぁ、いいよ!
今ね、桜香ちゃんを口説いているから
少し待っていてくれ!

Tさんは、顔色ひとつ変えずに、
私を、ジッと見つめている。


その瞳からは、何も読み取る事が
出来ない。


私は、目をそらした。