妙なもの、といえば私も夜勤明け、病院の駐車場で見たことがあります。
 その日は年度初めに赴任してきた研修医、私、それからナース数人が当直にあたっていまして、さしあたり急患もなく穏やかな夜が訪れ、朝を迎えることができました。
 
 お疲れ様でした、と互いをねぎらって、駐車場へ向かい、車に乗って帰ろうとしたときでした。
 
 私が歩く先のほうに、研修医の姿がありました。
 
 隣に、寄り添うようにして、女性が立っていたのです。
 
 赤いスカートをはいて、何かを抱えているように、背を丸くして。
 おや、彼女でもいるのかなと私もつい、好奇心で目を凝らしてしまいました。
 
 うなだれた背中は、なにも身に着けていませんでした。
 足元は朝日にすけており、赤いスカートだと思っていたそれは、和装における湯文字……腰巻でした。
 
 下着一枚、しかも赤く染まったものを身につけている女性など、往来でしばしば、見かけるものではありません。
 
 幼い頃見た、妖怪に関する本を思い出し、背筋がすうっと寒くなりました。
慌てて車へ乗り込み、安全運転を心がけ、家路を急ぎました。
 
 数日後、研修医は「雰囲気があわない」と言って辞めてしまいました。
 
 彼は、自分の傍らにいた「妖怪」に、気づいていたのでしょうか?
 
 私の話は、これで終わりです。
 
 (夢野「それはおそらく、うぶめだと思います」と注釈)