さっき、一二三が言っていた通り、俺が寝ている部屋にも出るんです。
真夜中に帰ってくると、部屋の真ん中で、首をくくってぶら下がっている男が、俺をじっと見下ろしているんです。
激務なんで、疲れてんのかなって思って、知らないふりをしていたら、ぶんぶんぶん、ぶんぶんぶんって、すごい勢いで左右に揺れて……。
顔は照明の逆光になって見えないんですが、目がこっちを見ている気配みたいなものを、感じるわけです。こっちとしては。
それでも、知らないふりをしてスーツやバッグを片づけて風呂に入ろうとしていたら「おい、苦しいだろう」って、耳の奥で語りかけてくるんです。
低くて、どこか俺をあざ笑うような、男の声が。
苦しくないって言えば、社畜まっしぐらの俺にとっちゃ嘘になりますよ。
ああ苦しいですね、けどまだまだ生きてますよって感じで後ろをむいて、無視していても、「来いよ、楽だぞ。なあ、楽だぞ。ほら、楽だから」としつこく、呼びかけてくるんです。
来いよ、来いよ、来いよ、来いよ。
来いよ、来いよ、来いよ、来いよ。
たまらず、振り返って、首をくくっている男のほうを見ました。
目の前に広がる状況に、ぎょっとしました。
部屋中に、首をくくった奴らがみっしりと、集まっていたんです。
男、じいさん、ばあさん、女、学生って、どんどん増えていくんです。
いい加減、狭苦しくなるし眠いしで、俺もついに爆発しちまいました。
来いよ、来いよ、来いよ、来いよ。
「……い」
来いよ、来いよ、来いよ、来い……。
「辛い煩いうざい、消えろおおおお!」
叫びながら台所にある食卓塩、あの小瓶に入ったやつをまるで下味でもつけるように、そいつらにふりかけてやったんです。
……ちっ。
舌打ちしながらひとり、またひとりと消えていきました。
一睡もしないで仕事する羽目になった話は、これで終了です。
お疲れ様でした。