おそらく最年少で、天才の山田三郎です。
いま中3で、学校にはもちろん通っているんですが、そこで、さっきMTCが話してくれた狐の噛み傷と似たようなことがありました。
学校では「ひねくれ者」で通っていて、知っている人もいると思いますが、同級生に友人がひとりもいません。いつも、いち兄から借りたラノベを読んでいるか、二郎の部屋から持ってきた雑誌をめくって、休み時間をつぶしています。
僕は趣味がボードゲームやカードゲームなので、校外にその関係で友人がいますから、寂しさはないんですよね。周囲も、あの子ちょっと変わっていて、ひねくれ者だよね、って距離を置かれていましたから。
けれど、どこからか聞きつけたのか、クラスや学年に、悪いこととか騒ぐことがかっこいいって思っている奴らっているじゃないですか?弱い者いじめして、強いって勘違いしているような。
僕としては関わりたくないんですが、ちょっと嫌なことがありまして。
ある日、教室の自分が使っている机に、カードゲームで使う専用のトレーディングカードを忘れてきてしまったんです。急いで取りにいくと、教室でまだ残っている男子生徒がいました。
そのうちのひとりが、僕のトレーディングカードを、足で踏んだり、手でちぎったりしていたんです。
相手は4、5人でしょうか。僕はひとりだから、敵うわけがありません。
なにか言い返して、いち兄から譲り受けた、ヒプノシスマイクまで奪われたら、そのほうがもっと辛いので。
決して、安いものではありませんが、そいつらが出て行くまで、教室の外で黙って待っていました。自分でも、情けないって思います。
こいつ生意気だよなとか、きもいとか嗤いながら言っているのに、僕はこわくて、なにもできなかった。ましてやBBで活躍しているという風に知られたら、嫌なことをしてくるのではと心配もしていました。真っ先に、いち兄の顔が浮かびました。
ばたばたと、目立ちたがりな足音をたてて、そいつらが出ていったあと、僕は
床にちらばったトレーディングカードを拾い集めて、帰りました。
いち兄と二郎には知られたくなくて、部屋にこもっていました。
翌朝、知らないふりをして学校へ行くと、騒がしくしていた奴らがみんな、休んでいました。
どうせさぼったんだろうと思っていたら、担任に「山田君、ちょっと」と呼ばれて、進路指導室へ行きました。
先生の話によると、そいつらが怪我をして入院したそうです。
搬送された病院で、手当されながら「三郎のカードが、カードが」って、何度も言っていたらしく、なにか知らないか?とのことでした。
どんな状態なんですかと詳しく訊いたところ、全員、指やモモの肉を噛みちぎられたような、ひどく痛そうな怪我をして、倒れ込んでいたそうです。
奴らが倒れていた場所っていうのが、イケブクロで昔、水窪川という川があったとされている、路地だったんです。川を埋め立てたあとに、できた場所なのですが、いまは居酒屋が連なる飲み屋街になっています。独歩が好きそうな店が、けっこう並んでいます。もちろん僕は、未成年なので飲酒はしません。
見つかったとき、奴らの身体はびっしょりと濡れていて、洗っていない水槽のような臭いをさせていたそうです。
病院でも、川遊びでもしたのかと疑われるぐらい。
水窪川は、もうないのに。
そういえば、ひどく破かれたカードは、ワニの姿を似せたモンスターを、描いたものでした。
川岸を通る人間を引きずり込んで骨まで食い尽くす、という設定だと、記憶しています。
長く使っているものには、魂が宿るという「付喪神信仰」がありますが、もしかしたら、トレーディングカードに魂が宿って、仕返しをしに行ったのかもしれません。
いち兄、そんな顔しないでください。もう向こうからは、謝罪を受けていますから。二郎もかわいそうじゃないから、気安く頭とかなでないでよ!
すいません、そんな恐くなかったんですけど、僕の話はこれで以上です。
ちなみに破かれたカードは持ってきたので、見たい人はどうぞ。
(理鶯「つくもがみ?」と夢野に訊く)