第3話 『三日月氷菓店』 | ぼくとかき氷

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食べたかき氷の記憶を文学的表現で記してゆく

 柏の路地に、いつも行列ができる店がある。なんとなく通り過ぎていたこの行列の行き先が、まさかアレを目指していたなんて夢にも思わなかった。
その日はいつもより少なく感じる行列の一番後ろに並んだ。並んでいたのは、横を歩くくるぶしソックスの女子高生を見て自分達の頃はどんな制服の着こなしだったかなどとペチャクチャ話をしているOL達。流行りの映画や恋バナに花を咲かれる女子高生。溢れ出る場違い感に気付かないフリをして少しずつ進んでいく列に期待を寄せるぼく。

どこからともなく空腹を加速させるような香りが。このおいしそうな香りは、香りは…



!?!?




そうか。この濃厚な豚骨スープの香りは隣のラーメン屋か。


どん!

念のために言っておくが、ぼくの行列の先はこのラーメン屋ではない。
なんてくだらない事を考え40分が流れ、ようやく店内へ。ふと後ろを見ると行列は更に伸びていた。人気なんだなあ







 怪しい階段を上がると、レトロな雰囲気のお店へ。ベンチでメニューを選ぶ。即決で生白桃。練乳をトッピングだ。
 店内では3人の男性が休む間もなくかき氷を生産し続けている。うーん。忙しそうだ。





 席に案内されるとすぐにお茶とかき氷が。
 自慢のiPhoneカメラでパシャパシャ。








うーん、芸術だ。



口の中で溶かしてみた。



よ、予想以上の桃感!
食べているのは氷のはずなのにそれはまるで、桃そのものをそのまま食べているかのようだった。

しかし食感は雲のように柔らかく、毎日のように行列を作っていた理由にここで納得した。

 夢中になって半分以上掘り進めた所で、視線を感じてふと顔を上げると寂しそうにこちらを見ていた練乳と目があった。



おまたせ



 練乳投入。雲がみるみる溶け出していく。練乳の甘みと生白桃の果実感が嘘のように絡み合い。裸のぼくをどこか遠くへと連れ出そうとしている。
 夢見心地のまま雲を掘り進めていくと異変に気がつく。底の方に固くて柔らかい何かがいる。もう一度言うが固くて柔らかい何かだ。恐怖と好奇心を胸に、その矛盾の塊を覗き込むとそれは、ミルクアイスだった。こんなところに居たのか。
 後半戦は牛乳に包まれながらあっという間に完食。
 940円という価格で丸一日某テーマパークで遊んだような経験ができるかき氷に感謝しながら、ぼくは店を後にした。