
死んでは生き返ってを繰り返し、100万回もの生を受けた猫がいました。 猫にはいつも飼い主がいました・・・その数100万人。 皆、猫が死ぬとワンワンと嘆き悲しみましたが、猫自身は一度も泣いたことがありませんでした。 ところが、この猫に見向きもしないものがいました。 それは美しい白い猫でした。 猫は腹を立てました。 そして毎日毎日、白猫に「俺はすごいんだぜ、なんてったって100万回も生きたんだから」と、自慢話をしに行きました。 白猫は気のない相づちを打つばかりでした。 今日も猫は「俺はすごいんだぜ」と言いかけて、途中でやめました。 そして「そばにいてもいいかい?」と尋ねました。 白猫は「ええ」とだけ言いました。 2匹は常に寄り添うようになり、一緒にいることがなによりも大切に感じるようになりました。 それからかわいい子猫がたくさん生まれ、猫はもう得意の台詞、「俺はすごいんだぜ」を言わなくなりました。 いつのまにか自分よりも、白猫や子猫たちのことを大切に思うようになっていました。 やがて子猫達は巣立って行き、白猫は少しお婆さんになりました。 猫は、白猫と一緒にいつまでも生きていたいと思いました。 ある日、白猫は猫の隣で、静かに動かなくなっていました。 猫は白猫の亡骸を抱いて、生まれて初めて泣きました。 100万回泣きました。 そしてぴたりと泣きやみました。 猫は、白猫の隣で静かに動かなくなっていました。 それから猫は、もう決して生き返りませんでした。
※佐野洋子「100万回生きた猫」講談社
いかにながく過ごしたより短くともどう生きたかがとっても重要で、猫は初めて愛と安らぎを得たのでしょうね!(^_-)-☆


