「カイルの告白 ~友情が紡ぐもの~」
僕が一年生だったある日、同じクラスの生徒が学校から家に帰るのを見た。
彼の名前はカイル。
彼はロッカーに置いてあった教科書を全部抱えて学校から家に持って帰るところだった。
「どうして、金曜日に教科書を家に持って帰るやつがいるんだ?やつはきっといかれたガリ勉 野郎(Nerd) にちがいない。」
一方、僕はといえば、週末は楽しい遊びのプラン (パーティーやフットボールゲームなど)でいっぱいだったから、肩をすくめて通り過ぎた。
歩いていると、少年のグループが彼の方に走っていくのが見えた。
そいつらはカイルをめがけて走り、彼の腕から彼が抱えてた本を全部たたき落として、ころばせた。
そして、カイルは泥んこだらけになってしまった。
カイルのメガネは3メートルくらい離れた芝生の上に飛んでった。
彼が見上げたとき、彼の目はひどい悲しみに満ちていた。
気の毒に思い、僕はあわててカイルのところに走り寄った。
カイルがメガネを探しながら這いずりまわっていたとき、彼の目は涙であふれていた。
カイルにメガネを探して渡しながら、「やつらは最低だ。きっと今に罰があたるだろうよ。」と言ってやった。
彼は僕を見て、「ありがとう。」と言って笑った。
彼のその微笑みには本当に感謝の気持ちが込められていた。
カイルの本を拾うのを手伝いながら、どこに住んでいるのか聞いた。
すると、カイルは、僕の家のすぐ近所に住んでいると言った。
でも、今まで一度も彼を見たことがなかったので、どうしてか聞いてみたら、彼は以前私立の学校に通っていたからだった。
今まで私立学校に通う友達なんていなかった。
僕たちはうちまでの道をずっと話しながら帰ってきた。
僕はカイルの教科書を運ぶのを手伝った。
あとで、カイルがかなりイカす奴だということがわかった。
僕の友達も交えて、一緒にフットボールをすることになった。
その週末はずっとカイルと一緒にすごしたが、彼のことを知れば知るほど、彼の事が好きになった。
そして、僕の友達もみな同じ意見だった。
月曜日の朝、カイルはまた教科書を全部学校に持って行く事になったので、僕はカイルを止めて、「おい、おい、毎日この教科書を運んだら、筋肉痛で大変だよ。」と笑った。
すると彼は持っていた教科書の半分を僕に渡した。
高校の4年間でカイルと僕は無二の親友となった。
4年生のとき、僕たちは進学先について考え始めなくてはならなかった。
カイルはジョージタウン、僕はデュ-クに行く事になった。
僕は二人の友情が距離は離れても全く変わらないのを知っていた。
彼は医者になるつもりだった。
そして僕はフットボールの奨学金をもらいたかった。
カイルは卒業生総代だったので、卒業式の告別スピーチの準備をしなければならなかった。
ステージの上で話すのが僕じゃなくて、本当に助かった。
僕はガリ勉のカイルをいつもからかっていた。
卒業式の日、カイルを見た。
かっこよかった。
高校時代に本当の自分を見つけ出した生徒の一人だった。
メガネをかけたカイルは実際に大人に見えた。
僕よりもたくさんの女の子とデートしてたし、女の子はみんな彼が好きだったので僕は時々やきもちをやいた。
今日もまさにそんな日だった。
でも、カイルが卒業のスピーチのことでかなり神経質になってるのがわかったので、彼をかしづいて、「ヘイ、カイル、かっこいいぞ」と言ってやった。
すると彼はあの日、僕を見上げたのと同じ表情で僕を見て笑った。
そして、「ありがとう。」と言った。
まず、咳払いをしてから、カイルはスピーチを始めた。
「卒業式は、僕たちがこれまでにつらい日々を過ごしていた時、それを乗り越えさせてくれた人々に感謝するいい機会です。たとえば、みなさんのご両親や先生方、兄弟、クラブ顧問のコーチ・・・でも、一番感謝するべきなのは友達でしょう。僕が今日ここで話すことになったのも、友情は人生で最高の贈り物であるということをみなさんにお伝えするためです。では、これから、そのことについてお話しましょう。」
カイルが僕たちが最初にあった日のことを話すのを信じられない思いで聞いた。
彼はその週末に自殺するつもりだったのだ。
ロッカーをきれいにしたのも、自殺した後に彼のお母さんがロッカーの掃除をしなくてすむようにだった。
だから、あの日、彼は教科書を全部運んでいたんだ。
彼は僕をしっかりと見つめて笑いかけた。
「ありがたいことに、僕は友達に救われました。」
このハンサムで人気の高い少年が彼の最も弱かった時のことを話したとき、聴衆の息が止まるのを聞いた。
彼のご両親が彼と同じ感謝に満ちた微笑みで僕を見つめた。
その瞬間、僕は初めてカイルとカイルの家族にどれだけ深く感謝されているか気がついた。
自分の行動力を軽く見てはいけない。
ほんの小さな意思表示が人の人生を変えることもある。
よかれ、あしかれ、我々は人から何らかの影響を受けながら生きるために命を与えられたのだから。

※カナダの学校ではこういった話を先生が積極的にクラスで生徒に話してあげて、いじめはいけないことだと強く教えている。
他人を尊重することがどれだけ大切なことか口をすっぱくして伝えている。
世界中のいたるところで、弱い者いじめが行われている今日だけど、ご両親や先生方からもお子さんや生徒さんにこの話を伝えていただけたらカイルはとても喜ぶだろう。
ほんの少しの勇気が人の命を救い、そこからお金では決して買うことのできない友情が芽生えることだってあるのだ。