「負けにまわる」-土の中の水道管のような人- 相田みつを
「バカがいなけりゃ利口は立たねぇー」 これは山本周五郎の小説 「サブ」の中のサブのせりふです。 バカのおかげで利口がひかるんです。 入学試験だってそうです。 落ちてくれる人のおかげで 受かるんです。 負けてくれる人がいるから 勝てるんです。 みんなが勝っちゃッてはダメなんだな どこかでだれかが 負けにまわらなければ・・・・ 負けてたまるか! 損してたまるか! バカにされてなるものか!! 誰も彼もが勝つことばかり考えて 負けにまわる者が一人もいない それでは世の中おさまりがつきません。 いつでもどこでもだれにでも こころやさしく親切で世話好き 一番骨が折れる 蔭の仕事ばかり引き受けて おかねとひまを使うばかり しかも 「これは自分がやった」 なんてことは決して言わない 話をすればいつも聞き役 必らず相手の顔を立てて 自分はいつも負けにまわる 負けにまわるが自分のやるべきことは ちゃんと具体的にやってゆく人 そして みんなに愛され信頼されている人 そういう人がいるんです わたしの身近に。 一番大事なところだけを しっかり守って 陽の当たる場所には顔を出さない 土の中の水道管のような人です。 その人の名はTさん!! 長い長いおつき合いの中で Tさんはわたしに 「負ける尊さ」を教えてくれた人です。 だからわたしは Tさんのことを 「負けの菩薩・T観音」 と呼んでいます。
