□「不動明王」 坂村真民 

 

ぴかぴか光っていた刃物も


いつの間にか錆がつく。 


だから砥石で研かねばならぬ。 


長い航海を終えた船は


必ずドックに入って、 


船底についてきた貝がらや藻類を落とす。 


人間は生き物だから、


それ以上にいろいろのものが くっつき、


どうにもならなくなっている。 


それに自縄自縛という言葉がある通り、 


自分で自分をしばって動きがとれなくなり、 


狂いそうになっている。(中略) 


 不動明王は、


この金しばりのようになった人間どもを、 


あの網でくくり、


あの剣で解き放つため出現されたのである。 


わたしはそのことを思うたび、


母が持っていた長刀と鎖鎌の ことが浮かんでくる。 


母もどんなにか切り捨てたことであろう。 


それが解脱なのである。 


そうするともうフラフラもグラグラもしない。