◆ 熊本の名校長・最後の授業 ◆

私が考える教育の究極の目的は 、「親に感謝、親を大切にする」です。
高校生の多くは、いままで自分一人の力で生きてきたように思っている。
親が苦労して育ててくれたことを知らないんです。
これは天草東高時代から継続して行ったことですが、このことを教えるのに一番ふさわしい機会として、私は卒業式の日を選びました。
式の後、三年生と保護者を全員視聴覚室に集めて、私が最後の授業をするんです。
そのためにはまず形から整えなくちゃいかんということで、後ろに立っている保護者を生徒の席に座らせ、生徒をその横に正座させる。
そして全員に目を瞑らせてからこう話を切り出します。
「いままで、お父さん、お母さんにいろんなことをしてもらったり、心配をかけたりしただろう。それを思い出してみろ。交通事故に遭って入院した者もいれば、親子喧嘩をしたり、こんな飯は食えんと、お母さんの弁当に文句を言った者もおる・・・」
そういう話をしているうちに涙を流す者が出てきます。
「おまえたちを高校へ行かせるために、両親は一所懸命働いて、その金ばたくさん使いなさったぞ。そういうことを考えたことがあったか。学校の先生にお世話になりましたと言う前に、まず親に感謝しろ」
そして、
「心の底から親に迷惑を掛けた、苦労を掛けたと思う者は、いま、お父さんお母さんが隣におられるから、その手ば握ってみろ」
と言うわけです。
すると一人、二人と繋いでいって、最後には全員が手を繋ぐ。
私はそれを確認した上で、こう声を張り上げます。
「その手がねぇ!十八年間おまえたちを育ててきた手だ。分かるか。親の手をね、これまで握ったことがあったか?おまえたちが生まれた頃は、柔らかい手をしておられた。いま、ゴツゴツとした手をしておられるのは、おまえたちを育てるために、大変な苦労してこられたからたい。それを忘れるな」
その上でさらに、
「十八年間振り返って、親に本当にすまんかった、心から感謝すると思う者は、いま一度強く手を握れ」
と言うと、あちこちから嗚咽が聞こえてくる。
私は 、
「よし、目を開けろ。分かったや?私が教えたかったのはここたい。親に感謝、親を大切にする授業、終わり」
と言って部屋を出ていく。
振り返ると、親と子が抱き合って涙を流しているんです。
大畑誠也(九州ルーテル学院大学客員教授)
引用元:『致知』2011年1月号
