自未得度先度他- 相田みつを
「お先へどうぞ-」

やさしくうつくしい日本語ですね、 或仏典の或ことばに 「自未得度先度他」というのがあります。
棒読みにすると 「じみとくどせんどた」
和文になおすと 「おのれ未だわたらざる先に他を度(渡)す」 と、読みます。
いいことは、他人様を先に- 自分のことは後まわし。 と、いう意味だそうです。
わたしは、宗教家でも 学者でもありませんので、 このことばの出所や出典を知りません。
しかし、 「お先へどうぞ---」という この暖かい日本語は この「自未得度・・・」がもとになって できたのではないか- と、素人判断で思っております。
おそらくまちがっているでしょう、まちがっていてもいいんです。
わたしはそう信じたいんです。
遠い遠い、先祖の日本人が こんな美しい、暖かい言葉を 残してくれたんです。
他人のことなんてそっちのけ 自分さえよければ- 我先に、我先に-と みんな夢中で突ッぱしる 物はいっぱいありながら 殺伐として満たされない 心の涸れきった世の中に もう一度 「お先へどうぞ-」 と、いう、うるおいのある この美しい日本語を お互いに呼びか合える 世の中になって欲しいなあ と、梅雨にぬれて 一段と色あざやかな
あじさいの花が 或る日の午後しみじみと わたしに語りかけてくれました。


