「ひまわり色の風船」 byウェディングプランナー 


ブライダルネット


 式場を探されているお客様は、 たいていカップルでいらっしゃいますが、 まれに親子でいらっしゃる方もおられます。 


 夏の終わりのある日、 母娘連れのお客様がいらっしゃいました。 


 娘さんがあまりに若かったこともあり、 お母さまがご結婚なさるのかと思い、「お式のご予定はいつ頃でしょうか?」 とお声がけしたところ、 「できるだけ早いほうがいいんです。


 娘がドレスを着られるうちに……」 とのこと。


 そうです。 新婦は娘さんだったのです。 


 お席にご案内し、 改めてお話をうかがうと、 新婦が16歳であること、 そして妊娠4か月であることがわかりました。


 そして、お母さまが必死の思いで娘に結婚式をさせてあげたいと考えていらっしゃることもー。 


 「私は結婚した時、式をしませんでした。 だからこそ、 この子には式を挙げさせてやりたいと思っています。 離婚してから、 女手ひとつで育ててきたため、 正直、 ずっと余裕はありませんでした。 今も盛大な結婚式をしてやれるようなお金などありません。 新郎の家は結婚に反対していて、 式をしても参列するかどうかわからない状態です。 だけど、子どもが生まれるんです。 だから、 式を挙げるだけでいいから、 ちゃんとこの子を花嫁姿にしてあげたいんです」


 予算をおうかがいしたところ、 式をなんとか挙げ、 記念写真を一枚撮るのが精一杯というところ。 


 ですが、 お母さまの必死な様子を見るにつけ、 私は、 シンプルでもちゃんとした挙式を、 なんとかご予算内でしてさしあげたいと心から思い、 その成功を決意したのでした。 


 一方、 一生懸命なお母様のお隣で、 16歳の新婦はサンプルの写真をご覧になっていました。


 そしてその1枚に目を止め、 無邪気におっしゃったのです。 


 「バルーンリリース、かわいい~。 やりた~い」


 新婦はお母様を困らせるつもりなどなかったでしょう。 


 予算のことも、 よくわかっていらっしゃったに違いありません。 


 でもその写真の可愛らしさに思わず声が出てしまった、 そんな感じでした。 


 お母さまは新婦の様子を見て、 私に尋ねられました。 


 「バルーンリリースって、おいくらくらいかかるんですか?」 


 正直に値段を申し上げると、 お母さまはふーっとため息をついてうつむかれてしまいました。


 新婦も、 自分のひと言がきっかけだとわかっているので、 悲しげな顔をされています。 


 そこで思いきって、 こうお声かけしてみました。 


 「お母さま。 お嬢さま。 結婚式は派手に騒ぐことが目的ではありません。 もちろん、お招きした方々に楽しんでいただくために様々な演出をすることもあります。 ですが、 もっともっと大切なことがあります。 それは、 お二人が心から幸せになるために、 永遠の愛を誓うことです。 だから、できることをされればいいのではないでしょうか。 お母さまがお嬢さまのために結婚式だけはちゃんとしてあげたいというお気持ち、 それだけでも本当に素晴らしいことですし、 とてもお幸せなことだと思います」


 お母さまは、 お顔を上げられ、 娘さんもにっこり微笑まれました。 


 その後、 お二人は日取りを決め、 仲良く帰っていかれました。 


 お母さまから電話がかかってきたのは、 挙式の3日前のことでした。


 「いろいろ考えたんだけど、 やっぱり一生に一度のことだし、 できるだけのことをしてあげたいんです。 いつまでも思い出に残るように、 生まれてくる子どものためにも離婚なんかしないように、 素敵な記念写真を残してあげたいと思うんです」


 スナップアルバムのオーダーでした。


 3日前ということで、 手配の締め切りは過ぎていましたが、 なんとしてもお受けしたいと、 慌ててあちこちに問い合わせたところ、 どうにかカメラマンの手配ができました。 


 シーズン的にカメラマンのスケジュールはかなり取りづらい状況だったのですが、 運よく引き受けていただけたのです。 


 「よかった。 これでお母さまのお気持ちが届く」 とほっとしたのもつかの間、 また次の日、お母さまからお電話が。 


 「申し訳ありません。 もしも、 もしもまだ間に合うなら、 あの子、 バルーンリリースとかいうのをやりたいと言っていたでしょう。 だから、やらせてあげたいと思うんです。 どうでしょうか…」 


 私は失礼だとは承知しながら、 ご予算のことを尋ねました。 


 これまでの打合せでうかがっていた状況からして、 新婦のためにあまりご無理なさって、 その後、 大変なことになってしまってもいけないと、気を回さずにはいられなかったのです。 


 すると、お母さまはきっぱりおっしゃいました。


 「お金のことは私がこれからもっと働いてがんばるから大丈夫です。 それより、間に合うかしら」


 間に合うかしら、 という声が震えていました。


 「間に合わせます」 


 無茶は承知でした。 


 ですが、 お母さまの想いにどうしても応えたかった、 そしてその想いを新婦に届けたかったのです。 


 お母さまとの電話を切るなり、 バルーンの会社に電話し、 頼み込みました。 


 「人手が足りなければ、 風船を膨らませるのもこちらで手伝いますから!」


 バルーンの会社の方は苦笑しながらも、 お母さまの想いを理解してくださり、 なんとか間に合わせていただけることになりました。 


 当日、 16歳の花嫁はやや目立ち始めたお腹をしっかり隠す胸下切り替えのウェディングドレス姿で、 満面の笑みを浮かべ、 とても幸せそうでした。


 隣に立つ若い新郎も本当にうれしそうです。 


 新婦のお母さまと、 幾人かのお友達に囲まれて行われた挙式は、 シンプルではありましたが、 和やかで心温まる時間となりました。 


 挙式が無事終了し、 チャペル前にやってきた新郎新婦の前に、 お母さまの愛情がいっぱい詰まったバルーンが運ばれてきました。 


 あまりにびっくりしたのでしょう。 


 新婦の表情が固まっています。 


 列席者に、お母さまに、 そして新郎にバルーンをお渡しし、 最後に新婦のもとにバルーンをお持ちした際、 ようやく我に返ったのか、 新婦が私に尋ねました。 


 「これ、どうしたの?」 


 「お母さまがぜひ、 やらせてあげたいとおっしゃったので、 ご用意いたしました」 


 大好きなひまわりの花と同じ黄色いバルーンを手にした新婦は、 とたんに子どものように泣きじゃくり始めました。 


 「ありがとう。お母さん、ありがとう」 


 お母さまも涙をあふれさせながら何度も何度もうなずいていらっしゃいます。 


 「それでは皆さん。新郎新婦が『せーの』と言ったら、 お手元のバルーンをリリースしてくださいね」 


 説明をした後、 新郎新婦に目で合図すると、 二人は幸せそうな笑顔で声を合わせて掛け声をかけられました。 


 「せーの!」 一斉に放たれたカラフルな風船たちは、 風に流されどんどん空高く昇っていきます。 


 その光景は、 リリースした皆さんの温かな想いを象徴しているかのように、 秋晴れの空を彩っていました。


 後日届いたスナップアルバムには、 この時の皆さんの笑顔がまぶしく写っていました。 


 この写真を見るたびに、 きっと娘さんはこの時のことを思い出してくださることでしょう。


 子供を幸せにしたい母の気持ちは本当に深いですね。


 バルーンリリースの追加注文を受けるとき 売上だけ考えるのでなく お母さまの家計まで考えてくれる プランナーも素敵だと思います。



※出典:山坂大輔著「結婚式で本当にあった心温まる物語」あさ出版 2011年8月16日発行 


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