夫と私は病院で、まっ白なシーツのかかったベッドをはさんで座っていた。 


ときめきが続く、お花の定期便bloomee(ブルーミー)

 

四歳のケイトがその足元で、ベッドのレバーを回して遊んでいる。


彼女にとっては、これも冒険のうちだった。 


パパが初めて病院にお泊まりするのだ。 


「パパはいつおうちに帰ってくるの?」とその朝、彼女はたずねた。 


私は「一週間よ」と答えたものの、それは完全には正しくなかった。 


夫のサージは、八か月にわたって、三週間ごとに一週間の入院をくり返さなくてはならないのだ。 


何泊ものお泊まり。 


そしてそのたび、「パパは?」とケイトはたずねるのだろう。  


不安でいてもたってもいられず、私はちゃんと整えてある枕をもう一度整えた。 


サージはあごひげに手をやった。 


抗ガン剤のせいでこのひげがなくなってしまうまで、あとどれくらいかかるのだろう? 


夫は、二十年以上あごひげを伸ばしてきた。 


あごひげのない夫なんて見たことがない。 


ガンという怪物が、私たちの生活の顔を文字どおり変えてしまおうとしているのだ。  


私たちは努めて、点滴が落ちるのを見ないようにしていた。 


サージの体にこの強力な薬物が流れ込むと思うと、この薬物がこれからやっつけようとしているリンパ腫に負けないくらいおそろしかったから。 


私たちは、ひとつの怪物を捕まえるために、もうひとつの怪物を飼おうとしているのだ。 


それは、おそろしい構図だった。  


私たちはベッドの向こう側とこちら側で、黙って向き合っていた。 


すべて言うべきことは言ってしまった。 


病気に関するややこしい話も、冷静を装った励ましの言葉も、愛情となぐさめに満ちた言葉もみな言い終わってしまった。 


なのに依然として、恐怖は消え去ってくれなかった。  


私が子どもの頃、暗闇で眠るのを怖がっていると、父がベッドの下の怪物を追い払ってくれた。 


ああ、人生があんなに単純だったらいいのに、私がサージの怪物を退治してあげられたらいいのに……。  


看護婦がドアからひょいと顔を出した。 


「面会時間はおしまいですよ」  


ケイトはレバーを回すのを止め、まるで何かを確かめるように、ベッドの下をちらりと見た。


それから、椅子に置いてあったリュックを手に取って、注意深くファスナーを開けた。 


そのピンクと紫のリュックを、彼女はどこへ行くときも持ち歩いていた。 


たいがいは、クレヨンと紙、絵本を二冊入れて。  


娘がリュックからそっと取り出したのは、ミシュカという名のクマのぬいぐるだった。 


ミシュカは、サージが子どもの頃から、彼のベッドの足元に置かれていたクマだが、ケイトが生まれたとき、きれいにして、新しく赤い蝶ネクタイをつけてやったのだ。 


ケイトは、ミシュカには魔法の力があると信じていた。 


「お守りのクマさんなの」と言って、いつもベッドの足元に寝かせていた。  


ケイトは、そのミシュカの耳元に何かささやき、ちょっとのあいだ、ぎゅっと抱きしめてから、父親の腕に抱かせた。 


「夜、パパを守ってくれるよ、怪物が来たって大丈夫だからね」  


泣かずにはいられなかった。 


四歳の娘のこの無邪気な言葉は、本で学んだ医学の知識も、患者の会のことも、なぐさめの言葉を見つけるつらさも、一瞬にして吹き飛ばしてしまった。  


ケイトは、パパが病院へお泊まりするあいだ、ミシュカがパパを守ってくれると信じているのだ。 


その信念には魔法の力があった。


娘は父親に、単にクマのぬいぐるみを渡しただけではない。 


恐怖に対する魔除けを贈ったのだ。


 アン・メティコッシュ 

 『親と子を変えた愛の不思議の物語 こころのチキンスープ』より


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