「波紋 -Tさんへ-」相田みつを

Tさんなあ
あなたの気持ち
よくわかるけど
今はなんにも言わぬほうがいいな
言えば弁解になるから...
静かな池の水面にさ
小石をポチャンと落とすだろ
水面いっぱいに波紋ができるよね
その波紋を静めようと手で押える
すると押えた手のところへ
また新しい波紋ができてしまう
だからね、波紋を静めるにはね
そのままにしておくことが
一番いいんだよ...
あなたが弁解すれば
弁解したところに
また新しい波紋ができる
苦しいだろうがね...
今は何にもいわぬほうがいい
その代わり、やることだけはやっておくんだよ
あんなに降った雪でも
時期がくればいつか自然に解けて
土の中から水仙の芽がちゃんと出てくるもんね...
弁解や言い訳よりも
いま、
ここで、
やるべきことを
具体的にやってゆくことだね
雪におおわれた土の中の球根のように......
※相田みつをの詩集「一生感動 一生青春」より




