「円融便り」相田みつを
昭和53年6月1日より
『いま一番欲しいもの』
「あんたねえ--- いま、何が一番欲しい?」
「そうね、広い土地が欲しいな、 家も欲しいし、車もいいのが欲しいし、 それから・・・・・」
「ダメダメ、そんなに いくつも並べちゃあ・・・・ あのね、一番欲しいものは何か?て、 聞いているんだよ、 ただ、一ツだけ聞いてるんだよ。」
「そうね、そう言われると ちょッと返答に困るなあ、」
「それではさ、いま、何が 一番やりたい? いま、あんたが 一番やりたいことはなあに? それを言ってごらん、 ただし、一ツだけだよ。 これ、一ツだけやり遂げれれば、 もう死んでもいい、 これさえやれば あとは何もやらなくてもいい、いのちと取り替えツこしてもいい--- と、いうものはなあに? それを言ってごらん。 親鸞の念仏のように 日蓮の題目のように 道元の座禅のように ただ一ツだけ、 それを言ってごらん。」
これは、欲の深いわたしが、 わたしの問いかけることばです。
あれもこれも欲しがる 自分の心の中を整理するために---。
自分のちからも考えず あれもこれもやりたがる 中途半ぱで、不徹底な おのれの生きざまに まツ直ぐな一本の筋を通すために 自分が自分に問う言葉です。
二度とない人生の的を 一ツにしぼるために、 あとにもさきにも かけがえのない いのちの的を はっきりと一点に しぼり直すために わたしはわたしに 問いかけることばです。
「いま、一番何が欲しい?」
「いま、一番何がやりたい?」 ※親鸞は「南無阿弥陀仏」という念仏に、日蓮は「南無妙法蓮華経」という題目に、道元は「只管打座(しかんたざ)」-ただひたすら座ることに夫々、自己の全生涯をかけた。
○題目とは、お経の題目のこと。南無妙法蓮華経と唱える。

