昔、プロ野球に西鉄ライオンズという球団があったんです。

そこに稲尾和久という大投手がいました。

稲尾さんと同期で二人のピッチャーが入ったそうです。

ところが、その二人と自分の扱い方がぜんぜん違うわけです。

彼らはピッチング練習をしているんだけれど、自分はバッティングピッチャーしかやらせてもらえない。

おかしいなあと思って、稲尾さんはタイミングを見計らって二人に聞くんですよ。

「僕は3万5000円の給料と契約金50万円で入ってきたんだけど、 君たちはいくらもらった?」

そうしたら二人は、契約金がそれぞれ500万と800万、月給も10万と15万だったそうです。球団の期待の度合いが全然違うわけです。

だから彼らはピッチャーの練習をしているのに、自分はバッティングピッチャーばかりやらされるのか、と稲尾さんは知るんですね。

普通ならみなさん、「なんだ、馬鹿にするな、俺はもう辞める」というところです。

でも、稲尾さんはいわないんです。

どうすればいいか、じーっと見ていて考えるんです。


 

私はよくいうんですが、伸びていった人というのは自分に与えられた環境、条件をすべて生かしきって成長していくんです。

わかりますか?

マイナスの条件もいっぱいあるんです。

そのマイナスの条件もすべて生かしきっていく人が成功するんです。

稲尾さんはまさにそうなんです。

彼は毎日バッティングピッチャーをやる。

だんだん嫌になってくる状況の中で、ハッと気づくわけです。

バッターというのはストライクばかり投げると嫌がるなって。

そりゃそうです。

毎回毎回打っていたらしんどいでしょう。

3球ストライク投げて、1球外してやるとバッターが一番嬉しそうにしている。

ボール球がきたら一球休憩できるからね。

そこに彼は目をつけるんです。

このボール球にする1球は俺だけのものだ。

この一球だけは別に相手を気づかわなくてもいい。

バッティングピッチャーだから3球はストライクを投げなきゃいけないけれど、残りの1球はボールでいい。

だから、その1球は俺のものだ。

稲尾さんは、この1球で自分の練習をしようと決心するんです。

高め、低め、インコース、アウトコースとボール球を投げ分ける練習をしようと。

その結果、彼は名コントローラーといわれるピッチャーになるんです。

すごいと思いませんか。

普通の人間ならふて腐れる状況の中で、1球のボールで練習しよう、と。

その一球だけは他の奴がピッチング練習するのと同じだと考えて、高め、低め、アウトコース、インコースと投げ分けてピッチングの練習をしたんです。

1時間で480球投げたら、そのうちの120球は自分のもんだと考えて練習を重ねて、名コントローラーといわれるピッチャーになっていくんです。

そうやって自分の与えられた環境の中で一心不乱に仕事をしていったから、稲尾さんの人格が磨かれて、運命を招来していったんです。 


 稲尾和久ウィキペディアhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E7%A8%B2%E5%B0%BE%E5%92%8C%E4%B9%85





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