いまだに苦い思い出として残っているのは、小学一年生のときの僕の誕生会。 


僕を一番可愛がっていた祖母から「マー坊の一番好きなものをプレゼントするよ」と言われていて、これはすごい物をもらえるぞと期待していた。 


そしたら色とりどりのご馳走が並んでいるテーブルの上に、山盛りのおにぎりがあった。 


 

 



でもそのおにぎりは、その場の雰囲気にまったくそぐわないんだな。 


おばあさんのおにぎりは、さださんの大好物で、お腹がすくと 「おばあちゃん、おにぎり、おにぎり」とせがんでいたのです。 


さださんのおばあさんはいつものおにぎりを作って、豪勢な料理の並ぶ中に置きました。


小学一年生の子供が、おばあさんの胸のうちを理解できるわけもなく、彼はおにぎりに手もつけず友達と遊びに出て行ってしまいました。 


豪勢な料理の皿は平らげられ、手付かずのおにぎりの山だけが残りました。 


なんとなく子供心にも気にかかりながら家に帰ると、祖母が薄暗い土間の食堂でそのおにぎりを崩しながらお茶漬けにして食べているんですよ。 


それを見た途端、「今から食べるけん」とかなんとか言ったんだけど、「そんなに気をつかわんでもいいから」って、祖母は厭味一つ言わなかった。 


僕は子供心にも、自分がいかに祖母に酷なことをしたんだろうと思って、泣きながら二つばかりムシャムシャ食った記憶が今も鮮明に残ってるんです。 


「精霊流し」(幻冬舎文庫) 解説から 


※おにぎりはさぞや塩味が効いてたことでしょう! 

人は知らず知らず相手を傷つけていることがあります。

 自分が分かるなら未だしも気づかずいることもあります。