昔、ある村に顔の醜い少女がいました。

孤児で、家もなく、森の落葉の中にもぐり、橋の下に寝る。

色は真黒、髪はボウボウ。

着物はボロボロ、身体は泥だらけ。

少女は、その醜さゆえに、「泥かぶら」と呼ばれていました。

子どもからは石を投げられ、唾を吐きかけられ、泥かぶらの心はますます荒み、その顔はますます醜くなっていくばかりです。

「あたしはこれからどうしたらいいの…」

夕日を見ながら、悲しくなり考え込むのです。ある日のことです。

泥かぶらがいつものように荒れ狂い、「美しくなりたい!」と叫んでいるところへ旅の老法師が通りかかりました。

「これこれ、泥かぶらよ。 そんなにきれいになりたいと泣くのなら、その方法を教えてしんぜよう。」

「3つある。まず1つは、自分の醜さを恥じないこと。 2つ目は、いつもにっこりと笑っていなさい。 そして3つ目は、人の身になって思うことじゃ」

泥かぶらは、激しく心を動かされます。 

というのも、それらは、今までの自分とまったく正反対の生き方だったからです。

「この3つを守れば村一番の美人になれる」

法師の言葉を信じた泥かぶらは、その通りの生き方をしはじめます。


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しかし、急に態度の変わった泥かぶら見て、村人は不審に思うばかりか、嘲笑し、中傷するのです。

ある時、事件が起こります。

事の発端は、村一番の美人で一番お金持ちの庄屋の子、こずえでした。

彼女がどうしたことか、「助けて」と叫んで、泥かぶらのところに走って来たのです。

こずえは、日頃から泥かぶらを嫌っていじめていた者の一人です。

何かわけがあるに違いありません。

果たして、こずえの後ろから、父親の庄屋が鞭を持ってやって来ました。

庄屋は、命よりも大切にしていた茶器を割られたことで、怒り心頭に達していました。

「泥かぶらが、割ったんだ」

父親の怒りを逃れるために、こずえは、日頃から評判の悪い泥かぶらに罪を着せていたのです。

怒り狂ったような庄屋は、娘の言うことを信じて疑いません。

泥かぶらを見つけると、容赦なく鞭で打って、折檻をし始めました。

泥かぶらは、すべてを悟り、黙ってその鞭を受けました。

「人の身になって思うこと」という法師のあの言葉を思い出し、「助けて」と頼んだこずえの願いを聞き入れたのです。

何度も何度も鞭で叩かれ、ひどい言葉を浴びせられながらも、泥かぶらはこずえを助けるために、最後まで耐え忍びました。

「もうやめよう。お坊様がおっしゃった3つの言葉、あんなことで私は良くなるとは思えない」泥かぶらが全身ボロボロになって、また丘の上の夕陽を見ながら泣いていた時でした。

後ろからそっとやってきた人がいます。

こずえでした。

「助けてくれてありがとう。 本当に悪い事をした。 これは私の宝物だから、あんたに、もらってほしい」

そして、自分が一番大事にしていた櫛(くし)を差し出したのです。

この時、泥かぶらは自分が報いられたことを知りました。

生まれて初めての経験に、泥かぶらは声をふるわせながら、こずえに言います。

「その櫛はいらないから、その心だけでいいからどうかこれからあたしと、仲良くして」

こずえは泣きながらうなずきました。

そして、泥かぶらの頭の泥を払い、櫛で髪の毛をすいてあげてかたわらの花を挿してあげるのでした。

それからです。

泥かぶらの人生が好転していったのは。

村人たちの泥かぶらへの評価がどんどん良くなっていきます。

そうなればなおさら、泥かぶらはお坊さんの3つの言葉をさらに実践していきます。

喘息持ちの老人には山奥に入って薬草を取って持ってきたり、子供が泣いていたら慰めてやったり、子守りをしてやったり、人の嫌がることでもニコニコしながら 次から次にしていきます。

すると、心も穏やかになっていき、あれほど醜かった表情が消えてなくなっていきました。

村人のために労をいとわずに働く泥かぶらは、次第に、村人にとって、かけがえのない存在になっていったのです。

ところが、そんなある日、村に恐ろしい「人買い」がやってきました。

人買いは借金のかたに、一人の娘を連れていこうとします。

泥かぶらと同じ年の親しい娘です。

「いやだ、いやだ」

と泣き叫ぶ娘の姿を見ていた泥かぶらは、人買いの前に出て、自分を身代わりにしてくれと頼みます。

こうして、売られていく泥かぶらと人買いとの都への旅がはじまります。

そんな時でも泥かぶらは、法師の3つの言葉を忘れませんでした。

・自分の顔を恥じない

・どんな時にもにっこり笑う

・常に相手の身になって考える

ですから、旅の途中、毎日毎日、何を見ても素晴らしい、何を食べても美味しいと喜びます。どんな人に会っても、その人を楽しませようとします。

「売られて行くというのに、 おまえはどうしてそんなに明るくしていられるのだ」

不思議がる人買いに、泥かぶらは、自分の心にある美しく、楽しい思い出だけを、心から楽しそうに話して聞かせるのでした。

そんな泥かぶらの姿に人買いは、激しく心を揺さぶられます。

親に捨てられ、家もない娘が不幸でなかったはずはない。

それなのに、誰に対しても恨みごとを言わず、むしろ村人たちに感謝さえしている。

そして、この自分に対しても、楽しい話ばかりして喜ばせようとしてくれている。

それに引きかえ俺は…

それに引きかえ俺は…

ああ、俺のこれまでの生き様はなんだったのか・・・。

月の美しい夜でした。

人買いは、泥かぶらに置き手紙を残してそっと姿を消します。 

手紙にはこんな言葉が書かれていました。

「私はなんてひどい仕事をしていたのだろう。お前のおかげで、私の体の中にあった仏の心が目覚めた。ありがとう。仏のように美しい子よ」泥かぶらはそのときはじめて、法師が自分に示してくれた、教えの意味を悟り、涙するのです。