娘と妻と三人で福岡に帰る日。 

お医者様の判断により、普通の座席に座るのではなく、
ストレッチャー(座席の上に取り付ける簡易ベッド)旅客として、ベッドに寝たまま搭乗することになりました。

ベージュ色のカーテンで仕切られているので、一般のお客様はいつもとは違うと思っても、そこにベッドがあって、病人が寝たまま乗ってるなど想像もつかないはずです。 

小学校4年生の娘は心臓病を患っており、今回、東京で手術をしていただいたのですが、
経過は順調とはいかず、この日は完治しないまま福岡に戻ることになりました。 

たくさんのCAさんが「こんにちは」「ご搭乗ありがとうございます」「大丈夫ですよ」と、
温かく迎えてくださり、安心して搭乗することができました。

長時間の移動で疲れたのでしょう。 

飛行機が動き出す頃には、娘はスウスウと寝息をたてて眠っていました。 

上空で、飲み物のサービスが終った頃、先ほどのCAさんが、声をかけてくださいました。 

彼女といろいろとお話しているうちに、手術のことや、娘が飛行機に乗るのを楽しみにしていたこと、
実は今日が娘の誕生日であることなども思わず口にしていました。 

しばらくして、娘が目を覚ましました。 

すると、担当のCAさんと一緒に二人のCAさんがいらして、
「ハッピーバースデートゥーユー」と小声で歌い始めてくれたのです。 

それだけではありません。

 「おめでとうございます」

と手作りのキャンディバスケットと
クルー(乗務員)の方々が書いてくださった励ましのメッセージ入りの絵葉書を持ってきてくださいました。 

娘は突然の出来事にびっくりしながらも、うれしそうに微笑んでいます。 

久しぶりに見た娘の笑顔でした。 

CAさんたちがバースデーソングの1番を歌い終わった、と思ったら、
また、「ハッピーバースデートゥーユー」が始まりました。 

それもカーテンの外で…。 

「え…どうしたの?」 

私たち家族、そしてCAさんまでもが驚き、顔を見合わせました。 

カーテンを少し開けてみると、さらに驚きました。

近くにお座りの女性のお客様方が歌ってくれていたのです。 

娘のために。 

さっき話していたのが聞こえていたのでしょう。 

大合唱ではありませんでしたが、その歌声は客室に響き渡りました。 

気づくと男性の声も混じっていました。 

多くの人の歌声がカーテン越しに聞こえてきます。 

娘の誕生日をこんなにも多くの方にお祝いしていただくなんて…。 

大変ありがたいと思う気持ちと、娘を不憫(ふびん)に思う気持ちで胸がいっぱいになり、
涙があふれだしてしまいました。 

娘の目にも涙があふれていました。 

カーテンに仕切られ、ベッドに寝ている娘の姿は見えないのに歌ってくださった皆様に、心から「ありがとうございます」と、頭を下げ続けました。 

人って温かいな。 

世の中捨てたものではないな。 

皆様に大きな勇気と温かさをいただきました。


 出典元:(空の上で本当にあった心温まる物語 あさ出版)




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