『いま一番欲しいもの』
相田みつを
「あんたねえ---
いま、何が一番欲しい?」
「そうね、広い土地が欲しいな、
家も欲しいし、車もいいのが欲しいし、
それから・・・・・」
「ダメダメ、そんなに
いくつも並べちゃあ・・・・
あのね、一番欲しいものは何か?て、
聞いているんだよ、
ただ、一ツだけ聞いてるんだよ。」
「そうね、そう言われると
ちょッと返答に困るなあ、」
「それではさ、いま、何が
一番やりたい?
いま、あんたが
一番やりたいことはなあに?
それを言ってごらん、
ただし、一ツだけだよ。
これ、一ツだけやり遂げれれば、
もう死んでもいい、
これさえやれば
あとは何もやらなくてもいい、いのちと取り替えツこしてもいい---
と、いうものはなあに?
それを言ってごらん。
親鸞の念仏のように
日蓮の題目のように
道元の座禅のように
ただ一ツだけ、
それを言ってごらん。」
これは、欲の深いわたしが、
わたしの問いかけることばです。
あれもこれも欲しがる
自分の心の中を整理するために---。
自分のちからも考えず
あれもこれもやりたがる
中途半ぱで、不徹底な
おのれの生きざまに
まツ直ぐな一本の筋を通すために
自分が自分に問う言葉です。
二度とない人生の的を
一ツにしぼるために、
あとにもさきにも
かけがえのない
いのちの的を
はっきりと一点に
しぼり直すために
わたしはわたしに
問いかけることばです。
「いま、一番何が欲しい?」
「いま、一番何がやりたい?」
※親鸞は「南無阿弥陀仏」という念仏に、日蓮は「南無妙法蓮華経」という題目に、道元は「只管打座(しかんたざ)」-ただひたすら座ることに夫々、自己の全生涯をかけた。
○題目とは、お経の題目のこと。南無妙法蓮華経と唱える。