2023年10月10日。成立寸前だった埼玉県虐待禁止条例改正案(以下「改正案」)の成立を断念するとのニュースが流れました。

改正案の取り下げを受けて、同日、自民党埼玉県議団の田村琢実団長の会見が実施されました。

東京新聞の会見詳報

 

 

 

の、「会見での主な一問一答」の中に、

「Q 学童の待機児童など、子育てしやすくなる環境整備は。
A まさにその点がこの条例で目指したところ。社会全体で子育てしていく環境づくりを、今、不足している部分を強化していくことを条例の政策効果として考えていた。
 小学3年以下は、学童保育に必ず入所させなければならないと法律にある。達成できていない市町村もある。加速度的に県がバックアップしていく姿勢を示しているつもりだったが、私どもが考えていた方向性ではないところに世論が動いてしまったところがある。今後のわれわれの課題とさせていただきたい。」

というQAがあります。「法律上」学童保育の入所対象児童が小学3年生以下というのは明らかに誤りです

平成27年4月に子ども・子育て支援新制度(以下「新制度」)が施行される前は、児童福祉法上、学童保育の対象児童は「おおむね10歳未満」(確実に対象となるのは3年生まで)でしたが、新制度施行後は、学童保育の対象児童は、児童福祉法上、小学6年生までと明確化されています。対象が小学生全体となってから、既に8年以上経過しています

各市町村は、学童保育(放課後児童健全育成事業)について定義する児童福祉法第6条の3第2項が、学童保育の対象児童を小学生全体としていることを踏まえた上で、地域の実情に応じて対象児童の範囲を定めるわけですが、学童保育を実施する自治体の95%が小学校6年生までを対象児童としており、小学校3年生までを対象児童とする自治体は、学童保育実施自治体の3%に過ぎません。また、現行の児童福祉法上「主な対象児童」といった概念もありませんので、法律上、対象は小学生全体だけどその中でも3年生以下は必ず、といった規定もありません。

 

しかし、2023年10月5日の東京新聞の記事

 

 

 

によると、自民党県議団は、改正案で、小学3年生以下の子どもを放置しないことを義務付け、4〜6年生については努力義務としたことについて、

 

学童保育の主な対象が小学3年生までのため、学年を区切った」

 

と説明しているようです。10月10日の田村琢実団長の会見での発言内容と合わせて考えると、現行法では、児童福祉法上の学童保育の対象児童が従前のおおむね10歳未満から小学生全体に改正されたことを認識されないまま、改正案が作成されたのではないかと思われます。

 

10月5日の東京新聞の短い記事だけなら、「学童保育の主な利用者」が3年生まで、という趣旨での説明だったのが、記者の要約不相当といった事情で「主な対象」という言葉を使ってしまったかもしれない、とも思います(利用実態としての4〜6年生の割合は、令和4年度のデータで約20%ですから、主な利用者が3年生まで、という趣旨なら正しいです。)。

(一般論として、学童保育の制度は非常にややこしく分かりづらいので、学童保育に関する記事を読んで、そのまとめ方は不正確では、と思うことはままあります。)

 

しかし、全国区で炎上した後の、当然、録音もされている10月10日の田村琢実団長の会見での一問一答の文字起こしで、田村琢実団長が「法律」という言葉を使ってもいないのに、「小学3年以下は、学童保育に必ず入所させなければならないと法律にある。」と詳報で書かれることは流石にないだろう、と思います。

 

そして、全国区で炎上して、学童保育の待機児童問題についても改めて問われる(埼玉県は学童保育の待機児童数全国2位)ことも確実な状況での会見での発言でこれですから、発言の文字起こしが正確なら、低学年の留守番禁止、高学年も努力義務化という、学童保育の待機児童問題が大きく影響する条例を作ろうとしたのに、現行の児童福祉法の学童保育の定義規定すら確認していなかった可能性が高いと思われます。義務化と努力義務化の区切りとしても、4年生以上が「制度の対象になっていないから義務化まではできない」と認識していた、と考える方が自然です。新制度以前の学童保育の対象児童は「おおむね10歳未満」(4年生にも10歳未満の子はいる)ですから、「主な対象」が小学3年生まで、という表現は新制度以前の児童福祉法上の学童保育の対象児童の表現であれば正確です。

 

今回、初めて改正案の報道に接した時、多くの保護者にとって、子どもの安全に心を砕いたとしても現実的に遵守することが難しい内容に驚くとともに、そこまでいうなら、待機児童問題等の学童保育の課題についても相応の検討はしてくれたのではないか、という淡い淡い期待も0ではありませんでした。

 

しかし、「埼玉県の虐待禁止条例と埼玉県の学童保育」でも書いたように、埼玉県の学童保育の待機児童数は同県の保育所の待機児童数よりはるかに多いにも関わらず、改正案では学童保育の待機児童問題には明記されていないことを確認し、また、10月9日の毎日新聞の記事

 

 

 

に、県内各自治体の幹部が改正案を巡り、関連する要項、規則、財源がセットで明示されていないこと等について怒りや困惑の声が上がっているという記事を見て、市町村の行政の現場との調整すらなかったことを知って驚いたところにもってきて、10月10日の田村琢実団長の会見でしたので、自民党県議団による議員提案って、ちょっとググれば出てくる、条例の内容に密接に関連する法律の確認もしないで作成されるの??と愕然としました。

 

10月12日には、田村琢実団長について文春砲も発動されたようですが、日弁連の学童保育関係の意見書の担当者等の学童保育関係の活動をしてきた身としては、学童保育に大きな影響を与える改正案が、ここまで学童保育の解像度が低い状態で作成され、成立して来年度から施行される直前だったことの方がショックが大きく、このことを忘れず記録しておくためにも、このブログ記事を書きました。