1 児童福祉施設ではない学童保育

 

 保育園時代を乗り切った、共働きやひとり親家庭の方々で、保育園と学童保育の違いに戸惑ったことのある方は多いと思います。保育園と、学童保育。両者の児童福祉法上の位置づけの違いを意識されたことはおありでしょうか。

 

 今回は、「児童福祉施設」である保育園(保育所)と、児童福祉施設ではない学童保育(放課後児童健全育成事業、放課後児童クラブ)、という観点から両者を比較したいと思います。

 

2 事業としての「法制化」

 

 1997年、学童保育は児童福祉法上も、同法第6条の3第2項により「放課後児童健全育成事業」として、初めて学童保育独自の法的な定義を得ました。これが、学童保育の「法制化」です。現在の児童福祉法第6条の3第2項の規定は以下の通りです。

 

 児童福祉法第6条の3

 ② この法律で、放課後児童健全育成事業とは、小学校に就学している児童であつて、その保護者が労働等により昼間家庭にいないものに、授業の終了後に児童厚生施設等の施設を利用して適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図る事業をいう。

 

 学童保育の「法制化」の30年前の1967年(昭和42年)に、全国学童保育連絡協議会が結成されたことからもわかるとおり、学童保育自体は、児童福祉法で定義されるよりも前から、保護者達を中心とするつくり運動により全国に存在していましたが、昭和の時代の学童保育は、児童福祉法上、根拠づけられた制度ではなかったのですね。

 

3 保育所(保育園)は児童福祉施設

 

 保育所については、児童福祉法の施行時(施行年月日:昭和二十三年一月一日)から児童福祉法第7条第1項において児童福祉施設の一種とされていました。そして、児童福祉施設である保育所には、「児童福祉施設最低基準(現在の児童福祉施設の設備及び運営に関する基準)」が適用されます。

 

現在の児童福祉法第7条第1項を見てみましょう

 

児童福祉法

第七条 この法律で、児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、児童心理治療施設、児童自立支援施設及び児童家庭支援センターとする。

 

12種類が限定列挙された児童福祉施設の中に、保育所はありますが、児童福祉事業である放課後児童クラブは入っていませんね。

 

「児童福祉施設」である保育所では、配置する従業員とその員数、床面積等については、「児童福祉施設最低基準(現在の児童福祉施設の設備及び運営に関する基準)」に定める基準を「従うべき基準」として「都道府県」が条例を定めることになります(同法45条1項、2項)

 

児童福祉法

第四十五条 都道府県は、児童福祉施設の設備及び運営について、条例で基準を定めなければならない。この場合において、その基準は、児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な生活水準を確保するものでなければならない。

② 都道府県が前項の条例を定めるに当たつては、次に掲げる事項については厚生労働省令で定める基準に従い定めるものとし、その他の事項については厚生労働省令で定める基準を参酌するものとする。

一 児童福祉施設に配置する従業者及びその員数

二 児童福祉施設に係る居室及び病室の床面積その他児童福祉施設の設備に関する事項であつて児童の健全な発達に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの

三 児童福祉施設の運営に関する事項であつて、保育所における保育の内容その他児童(助産施設にあつては、妊産婦)の適切な処遇の確保及び秘密の保持、妊産婦の安全の確保並びに児童の健全な発達に密接に関連するものとして厚生労働省令で定めるもの

(三項、四項は省略)

 

4 法制化後も、法的拘束力ある基準が長年存在しなかった学童保育

 

 学童保育の法制化は、児童福祉「施設」(同法7条1項)ではなく「事業」としての法制化であったため、法制化されても、当時の児童福祉施設最低基準が学童保育に適用されることはありませんでした。

 

  「児童福祉施設」ではない学童保育は、1997年に法制化はされても、配置する従業員とその員数、床面積等といった基本的な事柄にすら、法的拘束力ある基準はない状態が続いていたのです。

 

5 放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準と、従うべき基準の参酌化

 

  その状況が変わったのが、2015年の子ども子育て支援新制度の施行。

 

 学童保育についても、放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準ができ、「放課後児童支援員」という、学童保育独自の専門性が存在することを前提とする資格が創設され。有資格者の配置とその員数についてだけは「従うべき基準」とされました。

 

 参酌基準ではあるものの、法的拘束力ある面積基準も定められ、「市町村」が放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準に従いまたは参酌して、条例を作ることになりました(2020年度以降、たった2つの従うべき基準である、有資格者の配置とその員数に関する基準も参酌化されてしまったのは、このブログでも過去に記事にしてきた通りです。参酌化後の、学童保育について市町村が定めるべき条例についての児童福祉法34条の8の2の規定と、前述した保育所等の児童福祉施設について都道府県が定めるべき条例についての児童福祉法45条1項2項の規定を是非、読み比べてみてください。。

 

 児童福祉法

 第三十四条の八の二 市町村は、放課後児童健全育成事業の設備及び運営について、条例で基準を定めなければならない。この場合において、その基準は、児童の身体的、精神的及び社会的な発達のために必要な水準を確保するものでなければならない。

② 市町村が前項の条例を定めるに当たつては、厚生労働省令で定める基準を参酌するものとする。

 

 ここまで記事を読んでくださった皆さんは、保育園(保育所)と、学童保育(放課後児童健全育成事業)の「子供を守るための規制の厳格さの程度」がかなり違うと思われたと思います。児童福祉施設か、児童福祉施設ではないかの違いを感じていただけたでしょうか。

 

6 保育所と放課後児童健全育成事業の、市町村の実施責任の規定

 

 なお、保育所と放課後児童健全育成事業とでは、児童福祉法における市町村の実施責任についての規定ぶりもかなり違います。

 

 まず、保育所の場合。

 

第二十四条 市町村は、この法律及び子ども・子育て支援法の定めるところにより、保護者の労働又は疾病その他の事由により、その監護すべき乳児、幼児その他の児童について保育を必要とする場合において、次項に定めるところによるほか、当該児童を保育所(認定こども園法第三条第一項の認定を受けたもの及び同条第十一項の規定による公示がされたものを除く。)において保育しなければならない

 

学童保育(放課後児童健全育成事業)の場合

 

第三十四条の八 市町村は、放課後児童健全育成事業を行うことができる

 

保育しなければならない 保育所と

行うことができる 放課後児童健全育成事業※

※放課後児童健全育成事業を実施している市町村数は令和2年で1623(全国の市町村数は1718)

 

共働き率が高まり、各家庭だけで放課後の子どもたちの「子供時代の環境」を確保することが困難な現代。小学生の時期の放課後の子どもの育ちと(現実問題、主に女性である母親の)就労を個々の保護者が苦しい天秤にかけずに済むかどうかには、学童保育の質が決定的に重要です。子どもの放課後も、保護者の就労も、どちらも大切。

 

現在の学童保育の制度設計のあり方は、法制化の時点よりも共働率が大幅に増加した現在においては、「子どもの豊かな放課後」と「保護者の就労」という、いずれも大切な両者を十分に守れるものになっていないように筆者は考えています。