2020年3月1日(日)にウィルあいちで開催される

 

第36回あいち学童保育研究集会 新型コロナウイルスの影響により、中止となりました。2020年2月26日発表。)において、

 

「子どもたち一人ひとりが尊重される学童保育を目指して~「法教育の視点」から考える~」

 

と題した分科会(第11分科会)の講師を私が担当することになりました。

 

昨年9月22日に、第34回兵庫県学童保育研究集会で

「法教育と学童保育~ルールづくりから育まれるものとは~」

 

と題した記念講演及び分科会講師を担当したのに引き続き、地元愛知県でも学童保育研究集会で、学童保育実践を法教育の視点から再評価し、学童保育実践に活用するための、学童保育に関わる大人向けの法教育研修が実現することを嬉しく思います。

 

学童保育は、日本では、「親が働いているから安全のためにやむを得ず…」といった消極的なニュアンスで語られがちです(ちなみに、フランスの学童保育にあたる余暇センターでは、「学校や家庭とは異なる公共空間での市民教育ができること」も、目的の一つに挙げられています。(松村洋子・野中賢治編著「学童保育指導員の国際比較 放課後児童クラブの発展を目指して」37頁))。

 

しかし、新・放課後子ども総合プランにも

 

「子どもの主体性を尊重し、子どもの健全な育成を図る放課後児童クラブ

の役割を徹底し、子どもの自主性、社会性等のより一層の向上を図る。」

 

といった目標が掲げられているように、学童保育は単なる預かりではなく、学校教育とも家庭とも違う場で、自治的な子ども集団による余暇活動を通した子どもの育成、という子どもの育ちにとっての積極的意義を持つものです。

 

学童保育では、新・放課後子ども総合プランで上記の目標が掲げられるよりずっと以前、1997年に児童福祉法で法制化されるより前から、子ども達の自治的な集団作りの実践が積み上げられてきた、そしてそこには、法教育とは名付けられていないけれど、法教育と通じる内容が多く含まれていた、と学童保育に関する様々な文献を通して確信しています。

 

学童保育が児童福祉法上法制化された1997年は、学童保育の数は9000程度でしたが、2019年では、25881箇所にまで増えています。

 

学童保育の数が今よりももっと少なかった時代から。

 

学童保育では、それぞれ違う子ども達一人ひとりの人格を尊重しつつ、自治的な集団形成を支援する指導員※1による実践が、なされていたと思います。

 

しかしそれは、学童保育の中でしか通じにくい(=学童保育外に知られていない)、経験知的なものとして培われてきた側面が強いのではないかと感じています。

 

待機児童問題も深刻な学童保育では、その量的拡大はもちろん必要です。

 

一方、学童保育の数が急増すれば、当然、「新人の放課後児童支援員※2」も急増します。

 

また、もともと、保護者達により共同運営され、保護者達の運動により制度化されてきた学童保育も、マス化と企業参入を含む運営主体の多様化により、「学童保育の成り立ちの歴史的経緯や、経験知的に培われてきた子どもの自治の文化」に触れる機会のない放課後児童支援員が増えてくることは避けられません。

 

そのような状況の中で、従来からの実践の良い面を継承し、学童保育の子どもの育ちにとっての積極的意義についての社会的認知を向上させるためにも、学童保育実践の(外部にも通じる形での)【言語化】(と言語化した上での研修の普及)が不可欠だと思っています。

そして【法教育の視点からの学童保育実践の再評価】を、上記の意味での言語化のあり方の一つとして考えています。

 

あいち学童保育研究集会で、私が担当する分科会の案内文は以下の通りです。

皆様のご参加をお待ちしています。

 

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子どもたち一人ひとりが尊重される学童保育を目指して~「法教育の視点」から考える~

 

 法教育とは、法律専門家ではない一般の人々が,法や司法制度,これらの基礎になっている価値を理解し,法的なものの考え方を身につけるための教育です。

 

 放課後児童健全育成事業の根拠法である児童福祉法は、児童の権利に関す条約(子どもの権利条約)を基本理念として明記しています。児童福祉法や子どもの権利条約といった学童保育の関連法令も、当然、人権や平等といった、「法的な価値観や法的なものの考え方」は基礎としています。

 

 放課後児童クラブ運営指針には、「放課後児童クラブは、子どもの人権に十分に配慮するとともに、子ども一人ひとりの人格を尊重して育成支援を行い、子どもに影響のある事柄に関して子どもが意見を述べ、参加することを保障する必要がある。」という指針も、「子ども達が集団で過ごすという特性を踏まえて、一緒に過ごす上で求められる協力及び分担や決まりごと等を理解できるようにする。」という指針もあります。

 

 この両方が求められる、ということは、学童保育には

 

①「一人ひとり違う子ども達が、一人ひとり違うことを尊重されながら、みんなで主体的に過ごすための決まり」について、子ども達が理解できるようになる場であること

子どもに影響のある「学童保育の決まり」に関して意見を表明できる場であること

 

が求められている、といえます。

 

①②のような環境が保障された育ちの場で、子ども達が身につけていく力は、法教育が子ども達に育みたい力とも共通するものです。

 

  そして、支援員は、それぞれ意見の異なる子ども達一人ひとりの人格を尊重しつつ、異年齢で障害児も居る、学校の教室以上に多様性のある、発達段階の異なる子ども達が、集団で過ごせるような(少数者が不当に蔑ろにされたり、自由が過剰に制限されないような)合理的な決まりの作成や既存の決まりの修正を、子ども達の意見も聴きながら日々行っていくような育成支援を担うことが期待されていると言えます

 

 子ども達には意見表明権がありますから、支援員だけで決めてしまうことは望ましくない一方、子ども達だけに放任するのでは、いつまでも合意できなかったり、声の大きい子の意見だけが通ってしまいかねません。

 

 意見の違うどの子どもの権利も、それぞれ大事なものです。

 

 両者がぶつかった時に、どちらが優先するのかをどんな基準で判断するのか。どう両者を調整するのかは、簡単に答えが出ない、絶対的な正解のない問題です。

 

 そして、このような正解のない問題に対して思考する力を身につけるのが法教育なのです。

 

 講義及び学童保育で起こりうる事例を用いたグループワークを通して、「法的な価値観や法的なものの考え方」を学び、学童保育実践にも活用してみましょう。

 

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※1 学童保育で働く職員は、平成9年に学童保育が児童福祉法上も法制化されるよりも以前から、「指導員」と呼ばれていました。現在でも、学童保育では広く用いられている言葉です。

※2 平成27年度から、「放課後児童支援員」という学童保育(放課後児童クラブ)で働くための公的な資格が創設されました。