平成30年の倒産法第2問についても、答案例を作成してみました。

 

[設問1]

 1 小問(1)

(1)裁判所は、再生手続開始の決定をすることができるか。

 裁判所は、民事再生法(以下、法名省略)21条の要件を満たす再生手続開始の申立てがあったときは、25条各号の棄却事由がある場合を除き、再生手続開始の決定をする(33条1項)。

 本問では、A社は自ら振り出した手形を決済できないことが確実で、破産手続開始の原因となる事実の生じるおそれがあるとき(21条1項)にあたるのは明らかである。費用の予納は既になされており(25条1号)、他に破産手続又は特別清算手続が継続している事情(同条2号)や不当な目的で再生手続開始の申立てがされた(同条4号)事情もない。

 よって、裁判所は、再生計画案の作成等について「見込みがないことが明らかであるとき」(同条3号)に該当しなければ、再生手続開始の決定をすることができる。

(2)本問では、A社は、甲食品工場を生産拠点として事業を継続し、得られる収益によって再生債権を弁済する内容の再生計画案を想定している。A社の再生計画案は、作成等の「見込みがないことが明らか」といえるか。A社の主要債権者であるE銀行、F社及びG社のコメントを踏まえつつ、理由を付して論じる。

ア E銀行 

 この点、甲食品工場に抵当権を有している唯一の担保権者E銀行は、「現時点で手続に賛成とは到底申し上げられない」、担保権の行使についても「これから検討する」旨コメントしている。これらのE銀行のコメントは、あくまで申立て翌日の4月21日時点の、A社の再生手続開始の申立てに関する情報が乏しい段階のものである。 A社が債権者説明会(規則61条1項)を開催する等の働きかけをすることにより、E銀行が手続に賛成し、担保権の行使をしない方針となる可能性は十分にある。

 イ F社

 A社の再生計画案の作成等には、甲食品工場の確保だけでなく、仕入れ先との取引継続も必要である。そこで、仕入れ先F社、G社のコメントをふまえ、F社、G社との取引継続の目処がつかない状況かを検討する

 最大仕入れ先F社は、再建はできない、協力することは考えていない旨コメントしているが、債権者説明会の開催(規則61条1項)等のA社の働きかけによって、F社も方針が変わる可能性はある。

 ウ G社

 F社に次ぐ取引先G社は「業績回復も不可能ではない」とコメントしており、「再生手続開始の申立て後も取引を継続」した場合の債権回収の点の不安さえ解消できれば、G社との取引継続は見込まれる。

 そして、小問(2)で後述するように、A社には、G社の再生手続開始申立て後の取引に関するG社の債権回収についての不安解消のために取りうる方策もある。

ウ よって、A社の再生計画案は、生産拠点甲食品工場の確保及び仕入れ先との取引継続について目処がつかないものであるとはいえず、再生計画案の作成等についてその見込みがないことが明らか、とはいえない。 

(3)従って 裁判所は、A社について再生手続開始の決定をすることができる。

2 小問(2)

(1)A社は、G社に食材の取引継続をしてもらえるようにするため、どのような方策をとることができるか。 G社の取引継続についての不安は、再生手続開始申立て後のA社との取引による債権回収の点にあり、この不安を解消できる方策を取れるかが問題となる。

(2)この点、再生手続開始の申立て後・再生手続開始決定前に生じた債権も、再生債権(84条1項)として弁済禁止効の対象となるのが原則(85条)である。

(3)しかし、事業継続を前提とする民事再生では、再生手続開始申立ての直後から再生債務者が事業の継続に必要な行為をすることが当然想定される。そのため、「事業の継続に欠くことができない行為」によって生じる相手方の請求権を共益債権とする旨の許可についての規定が置かれている(120条1項)。

(4)よってA社は、G社との食材の取引は、「原材料の購入」であって「事業の継続に欠くことができない行為」(120条1項)であるとして、G社の債権については共益債権とすることを、裁判所(同条1項)又は監督委員(同条2項)に求めるという方策を取ることができる。

[設問2]

 1 小問(1)

(1)A社がどのような手続きを採る必要があるかについて

 監督委員が否認権を行使するためには、裁判所が利害関係人の申立て又は職権により、監督委員に対して、特定の行為に対して否認権を行使する権限を付与することが必要である(56条1項)。

 よって、A社は、裁判所に対し、利害関係人として、監督委員Dに対してA社が行った代物弁済につき、訴え又は否認の請求によって否認権を行使する権限を付与するよう申し立てるという手続きを取る必要がある。

(2)A社が前項の手続を採る必要がある理由について(管財人が選任されている場合と対比して)

 管財人が選任されている場合、再生債務者の財産の管理処分権は管財人に専属(66条)するため、否認権の行使についても、当然に管財人がその権限を有する。

 これに対し、監督委員が選任されている場合、再生債務者に財産の管理処分権が残されており(38条1項)、監督委員は財産の管理処分権は有していない。

 一方で、再生債務者は、自ら否認対象行為を行った者であり、公平で適切な否認権行使を期待し難い。

 そのため、管財人が選任されていない場合には、権限を付与された監督委員が否認権行使をすることとされた。このことが、A社が前項の手続きを採る必要がある理由である。

 2 小問(2)

(1)G社はA社の再生手続において、どのような方策を採ることが考えられるか。

 本問では、B社長は、F社が申し出た割引額相当額を、F社の顧問の実態のないB社長の妻の預金口座に、顧問料名目で送金させた上、送金された金銭をB社長の個人的遊興費に充てており、A社は、B社長に対し、任務懈怠に基づく損害賠償請求権を行使しうる(会社法423条1項)。

 そして、本問では、管財人が選任されていないので、再生債権者であるG社は、役員の責任に基づく損害賠償請求査定の裁判の申立てをする(143条1項、同条2項)、という方策を採ることが考えられる。

(2)また、本問では、B社長は、C弁護士の説得にも関わらず、B社長の妻名義の口座に送金された金額に相当する額の支払いを拒んでおり、財産を費消するおそれもある。

 そこで、G社は役員の財産に対する保全処分の申立てを行うという方策を採ることも考えられる(142条1項、同条3項)。

                                        以上