平成30年の倒産法第1問は、設問1が賃貸人破産の場合の、敷金返還請求権を自働債権とする相殺について、設問2が、破産者が株式会社の場合の(別除権の目的物である)不動産の放棄、についての出題だったのですが。

 

公表された問題と出題趣旨を読んで、ん?設問2の問題意識に既視感…と思ったら。

昨年11月に、設問2の問題意識にドンピシャな一行問題(…旧司法試験に選択科目があった時代の破産法にはいわゆる【一行問題】と言われる出題形式の問題があったんです。)を思いついていたことを思いだしました。

 

ちなみに

「破産管財人が不動産の放棄を行う場合において、破産管財人が行う利害関係人の利害調整のためになすべき行為について、破産者が法人である場合と個人である場合との差異を区別して論ぜよ」

という問題です。

 

受験指導している訳でもない私が当てていたからといってどうと言うことはないのですが笑、やはり気分は良く、調子に乗ったので&今年、ある受験生の方の倒産法の答案添削を引き受けることになったので。私が受験生最後の年に日々作っていた、

「答案構成と答案のあいだくらいのモノ」

を平成30年倒産法第1問で作ってみました。

 

この「答案構成と答案のあいだくらいのモノ」は、量と作成時間には縛りをかけつつ資料参照可で、司法試験論文18ヶ条という、問われていることに、読みやすく分かりやすく答えた答案作成のためのルールを意識しながら作成していました(なお、司法試験論文18ヶ条は、当時修習生(55期)だった夫に叩き込まれたものです。)。そのような勉強法を受験生最後の年に実施しました(インプットの復習とアウトプットの訓練を同時にできた勉強法だったと思います。)。私は57期(平成14年合格)なのですが、平成13年に論文に落ちた後に結婚したので、そのスタイル勉強をしたのは正味では半年くらいかと思います。

 

私は択一は得意だったのですが(択一試験だけなら、平成8年に大学3年生、20歳で合格)、論文については、分かりやすく問われていることにだけ答える、「知らなくても」問われていることから逃げない、その場で条文を探し、趣旨から考えてくらいつく、という論文作成の姿勢、【本番で考えたことのない問題が出ても、訳の分からないことを書いてしまう科目を作らない】【本番で、問われていることを間違えない】【問われたことに素直に、読みやすく答える】という目標から逆算した勉強を全くできてなかった、と当時の自分を振り返って思います。

 

(インプットをまずがーってやる時期はそれなりに勉強もキツいけど楽しかったんですよね、、でも、それだけじゃ受からない、でも、具体的にどうすれば受かるか分からない、インプットある程度したから、諦めるにはもったいない位の順位にはなるしで、…勉強してる振りしつつのバイトしたり絵を描いたりネットしたり…の中だるみ期を数年過ごしていました。能動的に勉強できず、答案例読んだりくらいで。。)

 

コンセプトは、「元ネタの判例を直接知らなかったとしても、1.問われていることを読み違えない、2.基本的概念の理解はあり、そこから【その問題】について思考できる、3.原則論指摘→修正の必要・例外という枠組みが身についている、4.条文を引ける、という作業ができれば、現実的に書ける量で、聞かれていることには読みやすく答えている答案例」、です。とても久しぶりに、司法試験論文18ヶ条を意識しながら作ってみました。

答案例の一つとして参考にしていただければ幸いです。

 

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[設問1]

 1 小問(1)

(1)(オウム返しで問題提起&原則指摘

Dは、A社に対する敷金返還請求権を~相殺することができるか。

原則 破産債権=破産者に対し破産手続開始前の原因に基づく請求権(2条5項)

   破産債権者は、破産手続によらないで相殺できる(67条1項)

   敷金返還請求権も破産債権→相殺できるとも思われる。

(2)(例外に該当すること&その趣旨を指摘)  

敷金債権は、賃借物件の明渡を条件に発生する停止条件付債権

→権利の発生が不確実

そのため相殺については、自働債権に供することはできない(67条2項前段)

(3)(結論・形式的問い対応も意識

 よって、Dは、A社に対する敷金返還請求権を自働債権として、毎月の賃料債務と相殺することはできない。

 2 小問(2)

 (1)(相殺ができないことによる問題を指摘

小問(1)の通り相殺ができない

しかし後に条件成就した時点での相殺の実効性が確保されなければ、賃借人の保護に欠く(※単に賃借人の保護に欠くでは具体的な理解不十分)

(2)((1)で指摘した問題点に関する法の対応)

そこで法は→70条後段を指摘

よって、Dは差し入れた敷金額(1000万円)の限度として、弁済額の寄託を請求する(70条後段)という法的手段を取ることができる(形式的問対応。また、取れる法的手段の内容は具体的に)。

2 小問(2)

(1)(オウム返しで問題提起&具体的な問題の所在指摘

Dは、C銀行がA社のDに対する賃料債権を物上代位した場合であっても、弁済額の寄託を請求する(70条後段)ことができるか(オウム返しの問題提起

C銀行:別除権者として破産手続によらずに権利行使可(65条1項)→抵当権に基づく物上代位による賃料債権の差押さえも可能

賃料債権が差し押さえられている場合→Dは破産管財人XではなくCに賃料弁済

賃料収入によって破産財団が増殖しない場合であっても、敷金の返還請求権を有する者による寄託請求(70条後段)が認められるか、問題となる(具体的な問題の所在指摘)。

(2)(悩みを見せて検討。結論はどちらでもあり得る。以下は回答例

確かに 破産財団確保の観点からすれば、70条後段は破産財団に賃料債務が弁済される場合に限られる、とも解しうる

しかし 70条後段趣旨 後に条件成就した時点での相殺の実効性確保→賃借人保護

→抵当権に基づく賃料への物上代位がなされたかどうかで、敷金に係る賃借人保護の必要性は変わらない

(3)(形式的問い対応を意識して、結論

 よって、Dは、C銀行がA社のDに対する賃料債権を物上代位した場合であっても、賃借人保護の必要性という70条後段の趣旨が妥当することを理由に、差し入れた敷金額(1000万円)の限度として、弁済額の寄託を請求する(70条後段)という法的手段を取ることができる。

 

[設問2]

小門(1)

 1(小問(1)前段)

 Xは、本件不動産を破産財団から放棄するために、どのような手続を採る必要があるか

 →条文を指摘 

 ①  裁判所の許可(78条2項12号)

 ②  破産者の意見聴取(78条6項)

 ③ 担保権者への通知(規則56条後段)

 Xは、本件不動産を破産財団から放棄するために、上記①、②、③の手続を採る必要がある。

※③を細かい、と感じたそこのアナタ!【破産者が法人である場合において、破産管財人が当該不動産につき権利の放棄をしようとしているとき】における担保権者への通知を定めた、破産規則56条後段は、本問との関係では最も重要な指摘すべき手続と言えると思います。

2(小問(1)後段)

(1)(問題文を意識したオウム返しの問題提起&具体的な問題の所在指摘

  Xが破産財団から本件不動産を放棄した場合、本件不動産は誰に帰属するか

  (破産者が自然人なら、放棄した不動産の所有権は、当然、当該破産者に帰属するが)本件では、破産者A社は株式会社→株式会社は破産手続開始の決定により解散(会社法471条5号)→A社は本件不動産の帰属主体とならないとも思われるため問題となる。

(2)この点→破産法35条を指摘「清算の目的の範囲内で破産手続終了まで存続」  

(3)(形式的問い対応して、結論)  

破産財団から放棄された本件不動産は、A社に帰属する

小問2

 1 (問題提起をしつつ、「聞かれていること」を確認。

 E信用金庫が、A社の破産手続に参加して配当を受けるためにはどのような手続を採る必要があるか

2 (不足額責任主義を指摘。Eの採るべき手続を意識しつつ書く。)

 破産法108条 不足額責任主義を説明 ※趣旨のキーワードは、「他の破産債権者との公平

 別除権者であるE信用金庫→別除権者が配当を受けるために採る必要がある手続を指摘(198条3項)

3 (本問の問題状況を具体的に分析。E信用金庫が採るべき手続の相手方を意識して書く

(1)(問題状況を具体的に分析) 

 この点 本件不動産の評価額2億に対し、1番抵当権者C銀行の債権額2.5億→2番抵当権者E信用金庫の債権は全く担保されない

 Eは、別除権を放棄して「被担保債権の全部が破産手続開始後に担保されなくなったことを証明する」のが合理的

(2)(具体的な状況分析を前提に、問われている内容の一つである、手続の相手方も意識して問題提起

 本件:破産管財人Xが別除権の目的物である本件不動産を放棄済み→Eが別除権の放棄の意思表示を行うにあたり、その相手方が具体的に誰になるかが問題となる

 →設問2(1)で述べたとおり、本件不動産の帰属主体はA社

 Eは、A社の代表者Bに別除権放棄の意思表示をすればよいとも思われる。

 しかし、株式会社の役員は、株式会社が破産手続開始決定を受けると同時にその地位を失う(会社法330条、民法653条第2号)

 そこで、Eは、裁判所にA社の清算人選任を申立て、選任された清算人を相手方として、別除権放棄の意思表示を行う。

(3)よって、Eは、A社の破産手続に参加して配当を受けるためには、別除権の目的物である本件不動産の帰属主体A社の清算人を相手方として別除権放棄の意思表示をして別除権を放棄をし、もって、Eの被担保債権の全部が破産手続開始後に担保されなくなったことを証明するという手続を採る必要がある。

 

                                   以上