最近。「東京地裁破産再生部における近時の免責に関する判断の実情」(平井直也広島高等裁判所判事(前 東京地方裁判所判事)/判例タイムズ1403号)を読みました。

この論文のラストは、こんな風に締めくくられています。
「免責不許可とされた事例の中には、破産者が、自らの義務についての理解不足等によって、破産申立ての直前や破産手続開始後に至って、財産の隠匿や虚偽説明などの免責不許可事由に該当する行為に及んでいる事案も散見されるところであり、申立代理人には、破産者に対し破産法上の義務の遵守に関して説明するとともに、破産者の免責不許可事由に該当する行為の有無について必要な調査を行い、該当行為が存在する場合には、破産申立書に記載することに加えて、可能であれば、早期に適切な是正の措置を採ることについても、ご検討をお願いしたい。」(※下線は私が加えました)

申立ての直前や破産手続開始後、というのは、弁護士である申立代理人が関与している時期。

【弁護士の関与前の段階で、債務者が破産法上の義務について理解するのは無理としても、申立ての直前や破産手続開始後の時期なら、破産者の破産法上の義務についてもうちょっとちゃんと理解させてよ、もっと理解していたら結果が違ったケースもあるんじゃないの?申立代理人は、破産者の破産法上の義務についてきっちり説明した上で、破産申立前の段階で免責不許可事由にあたる行為がないかちゃんと調べてよ、あるなら申立書にちゃんと書いた上で、最終的に免責不許可にしなくて済むような対応をしてよ】

というメッセージを強く感じる締めくくりですね。

破産法上の破産者の義務、について少しお話ししますと。

破産は「清算」の手続きなので、法律上手元に残しておける財産以上の財産があれば、お金に換えて債権者に配らなければならない訳です。

ですから、破産者には「どんな財産を持っているか」について、開示すべき義務(重要財産開示義務、41条)があります。
そして、破産管財人から説明を求められれば、「破産に関し必要な説明」をするべき義務があります(40条1項1号)し、免責についての管財人の調査に対しても、協力すべき義務(250条2項)があります。これらの義務に違反することは、免責不許可事由に当たります(252条1項11号)。

管財人による調査によって、申立書には記載されていなかった財産や免責不許可事由が見つかることは、ままあります(悪質な隠匿ばかりではなく、うっかり記載を忘れてしまったのね、と思えるケースも多いですが。)。

‥でも、もし、債務者本人が、破産手続において「破産者」はどんな義務を負うか、管財人がどんな仕事をするのか、ということを申立代理人から事前に説明されていなかったとしたら。
その上で、申立段階で、申立代理人から財産状況や免責不許可事由について突っ込んで聞かれていなかったとしたら。財産や免責不許可事由を言わなくても破産できるかな、という誘惑は、代理人から突っ込んで聞かれた場合よりも、ずっと高くなるでしょう。

例えば。
(‥A生命保険と、A生命保険の保険料が落ちてるB銀行の口座、そういえばまだ代理人の先生に言ってないな、A生命保険だけは解約返戻金そこそこいくなあ‥‥あと、Cにはお金を貸してて、B銀行の口座に時々振り込んでもらってるんだよね‥でも代理人の先生も最初に財産はこれとこれだけです、って言った後、それ以上何にも聞いてこないないし、言わなきゃ分からないだろ‥)
(‥お金の使い道、、本当はギャンブルとか海外旅行もあるんだよね‥でも、前聞かれたとき、生活が苦しくて、って言ってその後特に突っ込まれてないから、言わなくて良いかな‥)
って心理に陥りがちかな、と思います。

しかし、管財人は管財人の立場で独自に調査をします。申立代理人に聞かれなかった、調べられなかったからといって、申立代理人に伝えていなかった財産や免責不許可事由について、管財人から知られずに終われる、というものでは全くありません(冒頭に引用した判例タイムズ1403号で「破産申立ての直前や破産手続開始後に至って、財産の隠匿や虚偽説明などの免責不許可事由に該当する行為に及んでいる事案」が散見される、とあるのも、隠匿した財産の存在や、嘘の説明が嘘であると、管財人の調査によって発覚したからこその記載ですね。)。

判例タイムズ1403号で照会されている事案の中にも、申立段階で聞かれず、説明義務についても十分把握しないまま、隠しておけるかな‥と思ってしまっていたところに、管財人から、隠している財産に関する事項について説明を求められても、正直に言いそびれ、不合理な弁解をしてしまったり、説明を拒否してしまったり、、という流れで免責不許可になってしまった事例もあるのかな、と感じます。

免責についての判断の中で、「破産手続に協力しない、説明義務に違反する」ことのウェイトは大きいです。破産者を免責不許可にすることは破産法の目的ではなく、むしろ経済生活の再生の機会の確保が目的ですから、「破産手続が始まる前」に免責不許可事由に該当する行為をいろいろやらかしてしまっていても、誠実にそのことを説明して手続に協力すれば、よっぽどの免責不許可事由でない限り、破産管財人は、裁量免責の意見を書こうとするでしょう。

でも、、手続に協力しなかったり、嘘を重ねられると、破産手続が始まる前の免責不許可事由だけなら免責不許可の意見を書くほどではなくても、破産手続における説明義務違反、という、破産手続開始後の免責不許可事由を重視して免責不相当の意見を書かれることは十分にあり得ます。

だからこそ、申立代理人には、【破産者が、破産法上の義務についての理解不足故に破産手続開始後に免責不許可事由に該当する行為をしてしまう】ような事態を防ぐ役割が求められているのでしょうね。