弁護士aikoの破産の話1 では、どんな状態の時に(支払不能)、どこに(裁判所)、なにを(破産手続開始申立)したら、破産手続が始まるのかという話をしました。



じゃあ、破産手続き開始決定が出たあとの手続はどうなるの?、という話を破産法の目的と絡めてお話します。



え?破産をする目的なんて、借金をチャラにしてもらう以外に何があるの?裁判所に「破産」って認めてもらった(破産手続 開始決定が出た)のに、まだなにかやることあるの?と思われるかもしれません。



確かに、個人の債務者が破産手続開始の申立てを行う目的は、「債務について免責を得ること(=払いきれない借金を返さなくてもよいようにしてもらう。)」でしょう。



そして、債務者の経済的更生も破産法の重要な目的です。

(破産法の目的を定めた破産法1条は、「債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ること」を破産法の目的として定めています)



けれど、破産法の目的はそこだけにあるわけではありません。

「破産手続開始決定が出た時点」での

破産者の有する財産を(破産手続開始決定後の生活のために必要な一部を除いて)お金に換えて(換価)、

債権者に平等に配る(配当)。

ここにも、破産法の重要な目的があります。



配当をしてもなお残った債務について、破産者の責任を免れさせる効果のある『免責許可決定』は、債務者の財産の『換価』や換価した金銭の『配当』といった破産手続が終わってからなされます。破産手続開始決定が出たことは、債務が免責になったことを意味しないのです。



破産者の財産を売却してお金に換えたり、売却してできたお金を 配る等の役目を果たすのが、裁判所が選ぶ破産管財人です。破産管財人は、弁護士の中から選ばれます。私も、破産管財人の仕事をすることがあります。



そして、破産手続開始決定後は、もっぱら破産管財人が、破産者の財産をお金に換えたり、債権者に配る、といった手続を行います(なお、破産者の財産のうち、破産手続において破産管財人に管理処分権が専属するものを「破産財団」といいます(破産法2条14項)。)。


債権者は、個別に債務者に権利行使することができません(破産法100条 破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない。)

債権者は「破産手続に」よる権利行使…裁判所に『債権届』を出して、管財人から配当をもらう、という破産手続によらなければ、債権の満足を得ることができなくなるのです。



みんなが満額を受け取ることはできない状態なんだから、抜け駆けは禁止。

1円ももらえない人と満額の弁済を受けられる人が出てくるのはフェアじゃない。管財人に任せることでみんなが割合的に平等にもらえるように(全員、債権額の1割の配当を受ける等)しよう、債権者間で不平等がないようにしよう、というところにも、破産法の目的があります。『債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図ること』(破産法1条)が破産法の目的なんですね。



このため、破産手続開始決定が出ると、同時に破産管財人が選任され(破産法30条1項で、破産管財人の選任は、破産手続開始決定と同時に処分すべき同時処分事項として定められています。)、破産者が破産手続開始決定の時点で有していた財産の管理処分権は破産管財人に専属します(破産法78条1項)。



債権者への配当があって破産手続が終結する場合は、下記ののような決定が出されます。

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主文  本件破産手続を終結する。

理由  破産管財人が配当を終わり、破産管財人の任務終了による計算の報 告を目的とした債権者集会は終結した。

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そして、債務者が免責不許可事由に該当しない限り、破産手続の終結決定と同じ日に、免責許可決定が出されます。免責許可決定には、下記のような主文と理由が書かれているのが通常です。


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主文 債務者について免責を許可する。

理由 本件につき、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮すれば、破産者に経済生活の再生の機会を与えるため、免責を許可するのが相当である。

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ここまででお話ししたように、破産手続開始決定が出ると、同時に破産管財人が選任され、破産手続開始決定時に債務者が有していた財産の換価や配当が行われて破産手続が終結するのが原則です。


ですが破産手続開始決定が出ても、破産管財人が選任されないこともあります。


 破産法216条1項(破産手続開始の決定と同時にする破産手続廃止の決定) では、

  『裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。』と定められています。

 『破産手続の費用』が(通常管財事件と比較すれば)少額で済む少額予納管財事件の場合でも、20万円+官報公告費用は予納金として納めなければなりません。



 債務者に本当にお金が無くて、そんな予納金も出せない、と言う場合には、債務者の財産の換価や配当もできないわけで、破産手続を進めても、総債権者の利益にはなりません。破産手続を続行する実益がないのです。

その場合、破産管財人が選任されないことがあります。



破産管財人が選任されない場合は、破産手続開始決定が出たと同時に、破産手続について廃止決定をします(同時破産手続廃止)。同時破産手続廃止のことを、以下では、同時廃止、と言って説明します。



同時廃止の場合は、以下のような決定がなされます。


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主文

1 債務者 ○○ につき、破産手続を開始する。

2 本件破産手続を廃止する

理由

 一件記録によれば、債務者が支払不能の状態にあり、かつ、破産財団をもって破産手続費用を支弁するに足りないことが認められる

 よって、主文の通り決定する。

 なお、この決定に併せて、下記の通り定める。

                     記

1 免責についての意見申述期間

         平成23年10月○日まで

2 免責審尋期日 平成23年10月×日午前△時


 平成23年8月□日午後5時

      名古屋地方裁判所民事第2部

           裁判官  ・・・・・

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同時廃止の場合でも、破産手続開始決定が出たからと言って免責にはならないので、同時廃止の決定と併せて、免責審尋期日が定められます。


免責審尋期日には実際に債務者が裁判所に行って、審尋を受けます。同時廃止の場合、免責許可決定は免責審尋期日の後に出されます。



個人の債務者が自己破産を申し立てるとして、同時廃止でいけるのか、少額予納管財になるのか、通常管財になるのでは、債務者サイドで準備しなければならない予納金の額が違ってきますから、債務者にとっては大きな問題です。



また、自己破産をされる方は、法テラスの援助を受ける基準を満たされていることも多く、その場合、『破産手続開始申立を弁護士に依頼するのに必要な』『申立代理人弁護士に払うお金』は、法テラスで立て替えて貰えます(私も、ご相談を受けた方が法テラスの援助基準を満たしている場合は、法テラスへの持ち込みを行っています。)。


しかし、裁判所に納める予納金は、生活保護を受給している方を除き、立替の対象ではありません。



破産手続開始申立をするにあたり、破産管財人がそもそも選任されない同時廃止になるか、破産管財人が選任される管財事件になるとしても、比較的予納金が少額な少額予納管財になるか、より予納金が高額な通常管財になるかの、事件の振り分けにもいろいろな問題があります。



また機会があれば、そのあたりのお話しもしてみたいと思います(^^)