本部には私たちの他に、特捜班が加わっていた。

入院している間に、警視庁と総理大臣宛てに脅迫文が送られていた。

年に何十通と送られてくる怪文書や脅迫文ではあるが、今回の3件の事件との関連はかなり濃厚で

あると本部では考えているようだ。

脅迫文の中身は大きくプリントアウトされ会議室の一番前に貼られていた。

神とはなんだ???人間は神なのか?おぞましい傲りでしかない。
怠惰な人間を無くすため私は神より授かったウイルスでこの世界を救う。

素晴らしい力で世界を人間が汚す前に戻す。人間だけがこの地球を汚し壊している

地球にとって人間こそウイルスであろう。

3人は、言わば実験に使った。楽しいプレゼントも同封しよう

手紙を目にした人間たちよ

次は君たちの番だと思ってもらっていいだろ

君たちの神より


(なにこれ?神?今どきこんなこと書く人いるの?)

町田は脅迫文をみて、イライラした

事件の進展に乗り遅れてしまった、2係1班は同封されたというSDカードを別室で見ることを

安永管理に促された。

別室の会議室にはパソコンと壁にホームシアター用のプレイヤーが設置されていた。

証拠品袋に入れられたSDカードには3人の被害者の名前が書かれていた

矢田部がパソコンにSDカードを入れ、投影用のスクリーンに被害者佐久間 香苗が映し出された

佐久間 香苗はすでにベットの上に横になった状況で、感染しているように見えた。

その頬は赤く明らかに、高熱だろうとわかる。

こちら側に何か話しかけている口の動きはあまりに曖昧で読むことは難しい。

画像に手だけが映り佐久間 香苗の耳に体温計を押し当てた。

体温は42.8℃信じられないほどの高熱にうなされている。

日付は3/25日時間はPM8:23ビデオの端にカウンター表示されている

佐久間 香苗は通常風邪などをひいた場合の手当ては受けているように見えた。

氷まくらとポカリスエットのような水分保持の為の飲み物は画面に映っていた。

画面は一旦暗くなり、また横になっている佐久間 香苗を映し始めた。

日付3/26日時間PM8:25

前日よりかなりやつれた香苗が画面に映る

まったく同じように耳に体温計をあて、42.5℃の表示をその手は画面に映す

香苗にカメラが寄り画面いっぱいに香苗の顔が映った、目は虚ろになり頬の赤みは昨日より

より赤かった。

何か言いたげな口元にはもう力がない、カメラになんとか手を伸ばそうとしているが

手は空中をつかむだけだ。

また、画面が暗くなり

日付3/27時間PM8:30

ベットの香苗は眠っていた。

耳に体温計をあて42.8℃と表示。

香苗の顔にカメラが寄る頬は赤い、しかし昨日とは明らかに違う点は毛細血管が浮き上がり

ところどころ毛穴が赤黒く見える。目頭と目じりに赤い涙が残っていた。






気が付けば、ここに居るのは2係1班と佐久間 香苗の家に入った鑑識班とその時いた所轄の人間

だけだ。

(どう言う事?・・・このまま入院?)

会議室の中の安永管理、科捜研の鈴木主任、科警研の湯本、本部長以外の人々はいつの間にか

バイオハザードスーツを着た病院関係者に囲まれていた。


それから10日間私たちは強制入院を余儀なくされ、携帯電話すら入院後8日目で返された。

入院した警察病医院の隔離病棟では、四六時中監視され、2時間おきの検温が義務付けられた。

その為に、みなひどい寝不足にならざるおえなかった。一人ひとりは分厚いビニール製の透明な

カーテンの中にいる状態だったらしい。

捜査官で2人しかいない女性という事もあり、矢田部刑事と私は個室で過ごした。

配慮なのは分かっていたが、部屋に一人でいると、悪い事しか考えない。

もしかしたら、もう感染しているのかもしれないと幾晩も考え眠ることが出来なかった。

看護婦も医者もみんなバイオハザードスーツを常に身にまとっていたので、時々夢の中で

この現実も夢ではないかと思った。



8日目に携帯電話が自分の返された時には、自分は助かったのか、最後に身内への連絡を

しなさい。という事なのか・・・混乱した。

ただ、看護師が私を見つめ笑顔であったことで私は感染していないと確信を持てた、その時は

ただ、涙が出てきて止まらなかった。


「お疲れ様です。」

一言だけ看護師が私に声をかけてくれた。

入院後初めて、人と話した事で私の中で糸が切れてしまった。泣き続け、嗚咽に変わった


田岡さんに会えたのは、きっちり10日間経った日だった。

田岡さんの無精ひげは、綺麗に剃られ実はベビーフェイスだった事が私には驚きで

新鮮だった。

ただ、田岡さんの表情は硬く、厳しいものだった。

「町田さん、元気だった?」

私に気づくといつものやさしげな笑顔を見せてくれた。

「はい。元気でした・・・係長はいかがですか?」

「ああ、俺も他の1班の連中も大丈夫だ。」

わたしの後ろから矢田部さんの声も聞こえた。

「お疲れ様です。町田さんも、お疲れ様です。」

矢田部もいつものようにとびきり美しい笑顔だった。


10日間でどのくらい捜査は進展しているのだろう。田岡の電話は病院を出る頃からなり続けて

他の1班の電話もほぼ同様に鳴っていた。









フィロウイルスとは1976.8/26にアフリカエボラ川周辺で発見された。
当時44歳の男性が発症した。始めはマラリアかと思われたが、粘膜からの出血、多臓器不全などから、出血熱という症状で死亡した。

同じ年にザイールでも同様の症例が起こった。

フィロとは糸状になったウイルスの形状を表したもので、その形は杖のように曲がったものや数字

の6、チェロスに似たものもある。

人、霊長類に感染力が強く、ザイールエボラウイルスは致死率90%スーダンエボラウイルスは
50%に上る。

現在治療薬はない。また、バイオハザードレベルは最高位の4である。



目を通した人たちのため息と恐怖が会議室を包み込む。

湯沢研究員は、静かに話し始めた。

「みなさんに読んで頂いた内容ですが、今のところ空気感染で死亡したという事例はありません。

しかし、血液、体液、吐物、排泄物などに触れ、またそこに傷などがあった場合感染の可能性は

あります。

鑑識の報告によると、そのような状態になった方はいないという事ですので、ひとまず様子を

見たいと思います。

今この場で、被害者の血液、もしくは体液に触れ感染の恐れがあると思われる方はいませんか?」


もちろん、誰も手を挙げるものなどいない。

「しかし、今回の3件の病死には人為的に手が加えられた可能性のあるウイルスです。

潜伏期間は3~10日、その間に発症しなければ助かったということになります。

一般的なインフルエンザの潜伏期間とザイールエボラウイルスのどちらにもこの潜伏期間は含まれます。

ですので、ここにいるみなさんは今から10日間外出は控えて頂くのが賢明かと思われます。」


ざわざわと会議室の中はよどめいた。

ほとんどの捜査員が現場に入っている、鑑識班に至ってはかなり近くで被害者と接していた。

(どうしろと言うの?こんな状況では捜査もできない)


安永管理が立ち上がり

「今、聞いた通りです。2係1班と鑑識は10日間の待機をしてください。

外出は禁止です。待機場所は、警察病院の隔離病棟になります。

必要なものはすべて病院にあります。着替え、衛生用品などは心配いりません。緊急の処置でから

このまま、病院に向かいます。また、現状このウイルスについては他言しないでください。

みなさんの私物もすべて預かりウイルスの付着などがない物はお返しいます。」