被害者は、大佐古徹 70歳 大学院 教授 

死因は撲殺、鈍器による頭蓋骨陥没。

争った形跡はなし。後頭部への一撃で死亡したもよう

死亡推定時間、発見より、1時間から2時間前

凶器は発見されていない

本部に戻り会議が開かれ現状分かっている事の報告がなされた。

田岡の班に声が掛かったのは、今、田岡の班が関わっている3件のウイルスによる殺害事件に

大佐古徹が関わっているのではないかと、シキカンからの情報で関わることになったのである

大佐古の専攻がウイルス学でその世界ではかなり功績を残している。

鈴木優、佐久間香苗、工藤隆久の3人はいずれも大学生、そしてみな専攻がウイルス学。

大佐古の死が4人を繋げることになった。

3人は、大学は別々であるが学校外でサークルのようなものに属していた。

詳細はこれから詰めなくてはならないだろうが、おそらくウイルスの研究が主な課題だったのであろう。


田岡は、シキカンの報告を聞きながら、疑問に思うとところが幾つかあった。

一つ目に、エボラウイルスの入手は可能なのだろうか?

二つ目に、犯人はどうやってレベル4のウイルスをコントロールしているのか?

三つ目に、なぜ、サークルのメンバーをすべて殺害しなければならないのか?


ザラザラと無精ひげを撫でながら、犯人像を考えた。



次の犠牲者は、誰でしょうか?

神の裁きを受けなさい

4月に雪が舞う。粉雪はサラサラと音をたて、彼の上に舞い落ちる。

その彼には寒さは伝わることは無いだろう。

白髪になった、髪の毛はこの雪でさらに銀髪に見える、衰えた細い指先はしわがれて冷たく

何年も着続けたであろう茶色いタータンチェックのジャケットにも粉雪は落ちていく

開発途中の湾岸エリア

工事中と何年も前から架かる看板のその先に横たわり冷たくなった彼が見つかるだろう。

私が、彼を見るのは今日が最後。

「さようなら」

この計画にはあんたはいらないから、さよなら。


私の足跡は粉雪に埋もれていく。





田岡と町田が現場に車で急ぐ、人通りはほとんど無い。

神と名乗るその者と、すれ違った。外は薄暗く雪が舞って誰かとすれ違ったことすら気づかなかった。

現場に着くと、まだ鑑識は来ていなかった。

(おかしいな・・・いつもなら先にきているのに)

田岡は現場に入ろうか迷ったが、現場保持が優先だと思い直し遠巻きに現場をみつめた


数分後、鑑識のバンが到着し仕事にかかる。

町田が遅れた理由を聞いてきた。

「係長、遅れたのは湾岸エリアの開発時の地図と今の現場の地図が一区画違っていたから、らしいです。」

「そうか、この辺りは変化が凄いからな・・・でも、間違うなんて珍しいな」

「はい、そうですよね」

そのまま、会話は途切れてしまった。


田岡は廊下の端にある自動販売機でコーヒーを買った。近代的な建物の中はとても簡素に出来ていて

コーヒーが買える自販機もここの他には別の階のまた端にある。だがいつもここの自販機を使うことが多い

習慣になっているのかもしれない。

あのSDカードの内容を思い出すと途方もなく、これからの捜査の難航が予想される。

相手は世界で誰もまだ出来ていないことを成功させたと思われる天才かもしれない。

SDカードや現場や遺体には何も証拠は残されていなかった。完全な証拠隠滅がなされていた。

(ああ、戦うにも武器も楯もなしか・・・)

田岡は皇居の桜を見下ろしながら、思わずため息が出てしまった。

3人の被害者を発見してから、すでに2週間ほとんど何も進展していない。

手紙やSDカードから犯人に繋がる情報は出てきていない。大量生産のインクにプリンター

SDカードに至っては億になる生産量でとても犯人にたどり着く事は難しい。

コーヒーを飲みながら、ふと

(花見か…しばらく行ってないな…。最後に花見に行ったのっていつだったかな?)

記憶をたどりながら家族の事を考えた。

娘はもう大学に入った、田岡の仕事についても理解してくれている。しかし、小さい頃はよく泣かれた。

子供の誕生日、幼稚園、学校の行事、クリスマス、ほとんど過ごせなかった。

随分と泣かせてしまった。後悔は色々あるが、子供の成長は取り戻すことができない

あの子とうちのと3人で行った花見は、もう10年は経ってしまっただろうか、

綿菓子を顔中につけた笑顔の娘と少し肌寒い桜の下を歩いたな・・・。

珍しく嫁が腕を組んできて、少しドキっとしたな。お互いの暖かさは思い出すと腕に戻ってくる

感じがした。


「田岡さん!!大変です。」

町田が走って向かってきた。

「どうした?何かでたのか?」

「違います。」

ハアハアと息をつきながら町田は、新しい事件が起きた事を田岡に告げた。