患者はまたもや、激しい痙攣を始めた。

「ぐごごごごごごご!!!」

声にならない叫びが診察室に響きわたった。

次の瞬間大量の吐血と下血をした。

括約筋が裂ける音とともに部屋の中は血と排泄物の匂いで満たされた。

看護師たちも素人ではないが、その急変にただ,たじろぐ他なかった。

「先生!!」

「落ち着いてください。この診察室と両隣の診察室を閉鎖してください。」

「先生!!」

救命医になって、長くは無いがここまでの急変は初めてだった。

患者はもはや動かなくなっていた。

顔中血まみれだったが、虚ろな真っ赤な瞳はまだ開いたままだ。

(何の処置もできなかった・・・。いったいこれはどういう事なんだ)

「先生・・・」

怯えた看護師が田上の指示を待っていた。

まずは、この場所を閉鎖し、患者を隔離しなくては・・・。

感染症かどうかは今は分からないが、この症状は多分何らかのウイルスによる

熱病の疑いがあるはず。

とにかく、とにかく・・・急がねば。

田上は考えながら出来るだけ早く行動に移した。

遅かった・・・。

田上にその患者が吐いた血だらけの嘔吐物がかかった。診察室は一瞬で血だらけになり

凍りついた。医療従事者なら、血液の怖さは十分すぎるほど知っている。

一滴の血液の中に何億というウイルスが存在する。ある種、毒物だ。

外来でこんな事になるのは初めてという事では無いが患者の状態があまりにもよくない。

田上の頭の中ではいろいろな症例や医学書やガイドラインなどが、駆け巡る。

「大丈夫ですか!!」

患者に話しかける。

ゴボゴボ・・・。

喉に嘔吐物が詰まりかけている。急いでベットに横向きにして寝かせた。

これ以上気道を詰まらせないようにするためだ。

自分自身の状態もチェックする。

何処にも傷口は無かったはず、白衣の胸から下は浴びた血で真っ赤に染まっている

ズボンと靴も血だらけだ。

患者がベットの上で痙攣し始めた。

始めは、手と足が小刻みに震えだし、だんだんと激しさを増していく

両足はガタガタと震えだし背骨が弓なりにのけ反る。

その間もゴボゴボと気管から、嫌な音がつづく

看護師と田上は、患者の急変に出来る限り対応した。

「急いで、気道確保の準備!!」

「は・はい!」

「喉頭鏡!ください!」

田上が患者に屈み込む。首を後ろにのけ反らせ、気道の確保を行おうとした時。




その患者は、とにかく熱が高くインフルエンザの様に見えた。

ただ、目が真っ赤に充血しウサギの様だった。

「どうされましたか?」

「・・・あの・・・熱がひかなくて・・・」

消え入るように小さな声に、田上はその患者の方に思わず近寄った。

かろうじて、熱と聞き取れたので

「熱がひかないのですか?」

患者はこくりと頷く。

「いつごろからですか?熱が出たのは?」

「・・・2日前です・・・」

またもや、小さな声に近づく。

「もう一度お願いします。何日前からですか?」

グググググ・・・聞き覚えのある、音が田上に聞こえてくる。

(まずい!!!)

田上は患者からすぐさま離れた。